第15章 日華姫ーあの子の誕生日ー * 徳川家康
「家康、貴様に不本意な噂が立っているとは聞いていたが……それは解決したようだな」
「信長様が心配する事でもないんで」
「だが、貴様はもっと上手く立ち回れ。美依を俺の元から連れ出したのだから、不安にさせるような事はするな、良いな」
「……はい」
(甘いな、やっぱり…まるで父親だ)
娘を溺愛している父親像がチラついて頭が痛い。
そういや恋仲になった時も、色々と言われた記憶がある。
美依が可愛がられてるのは知ってるけど、男としてはやっぱり少し複雑だ。
そんな俺達の様子を見て、美依はくすくす笑っているし。
だが、そんな美依は次の瞬間、信長様の発言で一気に顔を真っ赤にさせた。
「貴様の誕生日が過ぎ、家康の誕生日は半年後か。美依、家康に子でも与えてやったらどうだ」
「へ……?!」
(……また何を言い出すんだ、この人は)
美依が赤面し、一気に固まる。
そして、小さくなって俯いてしまった。
子でも与えてやったらどうだって…祝言もまだなのに。
しかも『あげます』で出来るものではなく、あれは授かりものだからな。
……まあ、美依との子なら欲しいけど。
そんな本音はとりあえず置いておいて、美依は信長様になんて答えるのか。
少し助け舟でも出してやるか……と思っていると、美依は顔を真っ赤にさせたまま、意外な答えを口から紡いだ。
「か、考えて、おきます……」
「……!」
「ほう、期待していて良いという意味だな。今宵は気分がいい、貴様らも存分に楽しめ」
信長様は美依の答えを聞くと愉しげに笑い、そのまま席を外した。
随分上機嫌だな、いい事だけど。
俺は美依と二人で残され、未だ頬を染めたままの美依を見て……
その答えの真意を美依に聞いてみる。
「……子ども、欲しいの?」
「わ、私は、家康となら…そのっ……」
「……そう」
まだ見ぬ未来。
この乱世で、確かな"それ"が訪れる保証はないけれど……
それでも、それを約束するのは少し嬉しいな。
照れたような困ったような顔が愛しくて、俺は思わず苦笑を漏らしてしまった。