第15章 日華姫ーあの子の誕生日ー * 徳川家康
誕生日の特別な贈り物だから、俺はやってみようとそれを快諾。
布選びから始まって、店主に教わりながら毎日毎日小袖作りに没頭して……
それが理由で帰るのが遅くなり、不本意な噂まで立ってしまった事。
(着物を仕立てるなんて、未知の領域だったからな)
美依のように、知識がある訳でもない。
手先はそこまで不器用ではなくても、慣れない事は本当に時間が掛かって苦戦して……
店主にもたくさん手伝ってもらい、なんとか完成したようなものだ。
そして、今日最終調整をしてもらい、引き渡しは店主の娘がしてくれた事も説明した。
それに美依が偶然居合わせたのだと言えば……美依はぽかんと口を開けた。
「だから言ったでしょ、あんたが不安がるような関係じゃないって」
「そうだったんだ……」
「美依はなんで、あそこに居たの」
「私は家康があの呉服屋さんに通ってるらしいって噂で聞いて…行ってみれば通う理由が解るんじゃないかって思ったから、その……」
「……他の女と逢引してるかも、とか?」
「っ……」
(……本当に素直だな、可愛い)
気になって気になって仕方なくて、呉服屋に足を運んだのだろう。
『あの場』に居合わせたのは、ちょっと運が悪かったとしか言いようがないけれど。
俺もいきなり襟を直されて若干面食らったが、誤解を生むような状況になったのは俺の完全な落ち度だ。
美依は何も悪くない。
もっと…俺が器用に出来ていれば済む話だったのだから。
「美依……こっち、おいで」
俺は一旦美依から小袖を預かり、それを畳に置くと自分の膝に美依を座らせた。
息がかかる程近くで向かい合い、俺は美依と額同士をくっつけながら……
珍しく、自分の素直な本音を口にする。
「俺にはあんただけ、美依」
「家康……」
「あんた以外にはこんな風にはしないし、増してや俺が隠れて女と会ったり…そんな事できると思う?」
「……思わない」
「まあ俺があんたを放ったらかしにしたのが原因だから。誤解を生むような事もして…ごめん」
すると、美依はぎゅっと俺の首元に抱きついてきた。
そのままやんわりと引き寄せられて……美依は耳元で震えた声を紡ぐ。