第15章 日華姫ーあの子の誕生日ー * 徳川家康
────燃えるような夕陽が
俺達の姿を照らして、赤く染める
お互い無言で御殿に向かいながら……
それでも手を握り返してきた美依に堪らなく愛しさを覚え、胸が苦しくなった。
あんたの存在は俺自身を戸惑わせる。
でも……切り離すことが出来ないくらい、好きだよ。
俺を押しつぶしそうなくらい育った恋情。
それはもはや俺の手には負えなくて、それでも幸せだと思えるなんて……
俺は持て余す感情に灼熱を感じながらも、少しだけ目頭が熱くなって酷く困惑したのだった。
*****
一言も言葉を交わさず御殿に帰ってきた俺達は、自室に直行して向かい合って座っていた。
本当なら誕生日は明日で、贈り物を渡すには一日早いのだろう。
でも、そんな事は言ってられない。
美依を安心させなければならないからだ。
俺は呉服屋から引き取ってきた、和紙に包んだ『それ』を美依の目の前に置く。
美依がそれを見て、不思議そうに首を傾げるので…
今日までの事全てを打ち明けようと、俺はゆっくり口を開いた。
「……それ、開けてみて。あんたへの贈り物」
「贈り物?」
「あんた、明日誕生日でしょ」
「家康、覚えてたの?」
「忘れてると思われるのは逆に心外。忘れる訳ないでしょ、俺にとっても大切な日だから」
すると、美依は少しだけ目を輝かせる。
そのまま俺に言われた通り、素直に和紙の包みを開いた。
……この瞬間って、何よりも緊張するな。
もし、喜ばなかったらどうするんだろう。
そんな不安も過ぎったが、それをいい意味で裏切るように、美依は中身を見て驚いた表情を浮かべた。
そして、それを手に取り、ゆっくり広げて……
まるで恍惚とするように、言葉を紡いだ。
「小袖……?!」
「気に入った?」
「可愛い柄…着心地も良さそうだし……!」
「それ、俺が作った」
「えっ…家康が仕立てたの?!」
俺の言葉を聞き、さらにびっくりしたような声を上げる美依。
俺はそのまま、この数日にあった事を話して聞かせた。
贈り物を選びに呉服屋に行ったら、一から仕立ててみないかと言われた事。
世界でたった一つの特別な一品になると言われ……贈り物にぴったりだと。