第3章 拝啓 愛しい君へ《後編》* 明智光秀
「光秀さん…お湯、ありがとうございました」
襖を開け、襦袢姿の美依がひょっこり顔を出す。
簡単な着物に着替え、書簡を読みながら部屋でくつろいでいた俺は…
湯浴み後の美依に気がつき、笑みを浮かべて手招きをした。
今日、美依は御殿に泊まりに来ている。
俺が文で『泊まりに来い』と誘ったから、美依は素直にやって来たようだ。
だが───………
俺は文に『深く愛してやろう』とも書いた。
それを美依がどう捉えたかは知らない。
でも、単純に考えて『恋仲の男と一晩を共にする』と言う事がどういう事なのか…
いくら経験のない美依でも、それは理解していると解釈しているのだが。
「ほら…おいで、美依」
「……っ」
「そう警戒するな、髪を拭いてやろう」
「あ、ありがとうございます…」
美依は『あの日』と同じように、俺の前にこじんまりと座り込む。
俺は美依が手に持つ手拭いを受け取り、それでまた以前のように濡れた髪を拭いてやった。
滑らかで細い髪。
それは濡れる事で艶やかさを増し…
湯上りの何とも言えない色っぽさを、さらに助長しているかのように見える。
(それに…何やら良い匂いもするな)
香油でも付けたのだろうか。
ふんわりと漂う甘い香りは心を刺激し、微かに精神を昂らせた。
全く、このような匂いをさせて…
この俺を煽っているのか?
まぁ、それに乗ってやるのも悪くはないな。
俺は髪を拭き終わると、手拭いを脇に置き、そのままふわりと美依の身体を背中から掻き抱いた。
ああ、やっぱりいい匂いがするな。
思わず首筋に顔を埋め、そのまま呼吸していると。
美依が何やら上擦ったような声で、俺に向かって声を掛けてきた。
「み、光秀さん…どうしたんですか?」
「ああ、何やら甘い匂いがすると思ってな」
「あ…その、着替えていた時に、女中さんが練り香を焚いていたので、それかも……っ」
(成程な、女中達の仕業か)
これは沈丁花の香りに近いか。
このような官能的な香りを漂わせるなど…
まさにこれからの"行為"そのものを促しているような、そんな気分にさせられる。