第15章 日華姫ーあの子の誕生日ー * 徳川家康
(もう少し待ってて、あんたを最大級に喜ばせるから)
俺は一刻も早く美依の誤解を解いてやろうと、その日は公務を早々に切り上げて呉服屋に向かった。
今日仕上がった物の最終調整を、店でやってもらっているからだ。
それを引き取り、すぐに会いに行こう。
そして、誤解を解かねば。
そう思っていたのに……
運命の悪戯ってやつなのか、俺と美依の間でもう一悶着起こる羽目になる。
そんな事は露知らずの俺は、ただ美依の事を思い、なんの疑問も持たずに呉服屋へ足を運んでいたのだ。
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「良かったですね、何とか仕上がって」
「うん、間に合って良かった」
「解れとかは直しておきましたから、このままお渡し出来ますよ」
「ありがとう」
呉服屋の女の子に目的の物を手渡され、俺は安堵感から思わず頬を緩めた。
『これ』は呉服屋の主人と二人三脚で手掛けたものだが、今日はどうやら用事で本人が引き渡しが出来ないと言うので……
その娘という子が、代わりに引き継いで渡してくれた。
広げてみれば、優しい色合いの布地に花柄がよく映え、会心の出来だというのが確信できる。
(提案された時は無理かと思ったけど…何とかなるもんだな)
これで美依が喜べばいいな。
俺が望むのはただそれだけだ、でもきっと美依も気に入ってくれるだろう。
それを思えば、今までの苦労が報われる気がした。
その後、それを丁寧に畳み、ついでに綺麗な和紙で包んでもらって、俺は呉服屋を出る。
足早に帰ろうとすると、店から店主の娘が出てきて、俺を呼び止めた。
「ぜひ今度はお二人で居らしてくださいね」
「そうさせてもらう。店主にも礼を言っておいて」
「母も今日直接渡せないのをガッカリしてましたよ。家康様からの言伝を伝えておきますね」
「じゃあ、俺はこれで」
「あ、家康様!」
すると、娘は不意に俺の襟元に手を伸ばしてきた。
そのまま伸ばすように襟を直され……いきなりの行動に少しばかり面食らってしまう。
「はい、直りましたよー。男たるもの、襟元は乱れてたら駄目ですよ?」
「……ありがとう」
ちょっと気まずくて、礼の言葉は少しぶっきらぼうになった。
あんまりこういう事はされ慣れないし。