第15章 日華姫ーあの子の誕生日ー * 徳川家康
「……そんな事は絶対有り得ません」
「そ、そうだよなぁー」
「なんでそんな事聞くんですか?」
「んー実はな」
秀吉さんは苦笑いをしながら、指で頬を掻く。
そのまま言いにくそうに話してくれたのは、今日までの俺の行動が裏目に出ていたと証明するような話だった。
「お前、最近勤しげに城下の店に通ってるだろ」
「え」
「家康は最近公務終わりにある呉服屋に行って、夜遅くまで帰ってこないと。もしかして、他の女と逢引でもしてるんじゃないかって、ちょっとした噂になってるぞ」
「……はあ?」
「それが美依の耳にも入ったらしくて、最近やたら不安がってるって話だ。最近美依を構ってやってるか、家康?」
(………あ)
『……ねぇ、家康』
『なに?』
『ううん……なんでもない』
数日前の夜の会話が頭に過ぎる。
何か言いたそうで、言葉を濁した美依。
その時は、何も気に止めなかったけれど……
もしかして美依は言い出せなかったのだろうか。
俺にもしかしたら別の相手が居るのかもしれないと、それを不安に思っていたのだろうか。
そして……寂しいと感じていたのか。
俺が最近全然構ってやれてなかったから。
贈り物の準備で手一杯で、ずっと帰宅も遅くて、ずっと美依を放ったらかしにしていた。
あの子は聞き分けが良すぎる。
だからきっと『寂しい』や『不安だ』などとは言えずに……
俺から何か話してくるまで、待っていたのかもしれない。
────あの子の事を考えていた筈が
逆にあの子を不安にさせていたなんて
「すみません、秀吉さん。あの子の誕生日の贈り物を準備していて、それで呉服屋に通ってるんです」
「そうだったのか、まあ明日だしな。でも誤解は解いてやれよ?」
「それはもちろん」
「明日の宴には二人で仲良く参加するんだぞ」
秀吉さんはやんわりと笑い、そのまま去っていった。
俺はと言うと、自分の不器用さ加減に呆れて、思わずため息をつく。
あの子の為に、あの子を喜ばす為に。
それだけを思って行動していた事が、結果あの子を一人にさせ寂しくさせていた。
これはもう……誕生日で挽回するしか方法はないだろう。