第15章 日華姫ーあの子の誕生日ー * 徳川家康
(こっちは派手だな、逆にこれだと地味……)
────水無月の中頃あたりのある日
呉服屋を訪れていた俺は、ああでもないこうでもないと着物を見比べて、早一刻が過ぎようとしていた。
理由はもちろん自分が着飾る為ではない。
今月はあの子の誕生日があるから……
新しい着物でも贈ってやりたいと、こうして選びに来たのだ。
だが、いざ選ぶにしてもなかなか決まらない。
あの子の雰囲気に合うように、可愛らしい柄が良いと思ってみたり、たまには一風変わったものもいいかと思ってみたり。
でもあの子なら派手な柄でも、素朴な柄でも、そこそこに着こなしそうだ。
そう思ってしまえば、花柄でも蝶柄でも矢羽根柄でも、どれも似合うような気がして、本当に決まらない。
大切な子だから、これぞと言う一品を選びたいのだが……
「随分お悩みですね、よっぽど大切な方に贈られるのですか?」
俺がうんうん唸っていると、少し離れた場所でにこにこしていた呉服屋の主人が、俺の傍に寄ってきて声を掛けてきた。
少しだけ腰の曲がった、優しげな雰囲気の女店主。
その『お見通しですよ』と言ったような様子に、俺は少しだけバツの悪そうに答える。
「……恋仲の子が誕生日近いから、それで」
「お誕生日の贈り物ですか、素敵ですねぇ。どんな感じのお嬢さんなのですか?」
「どんな感じって……」
『────家康』
店主に言われ、美依を思い浮かべた。
ふにゃりとした愛らしい笑顔や、鈴を転がすような心地いい響きの声とか。
性格だって素直で、純で、頑張り屋で……
俺には勿体ないくらい、すごくいい子で。
ぱっと花が咲いているみたいに、居るだけで空気が明るくなる。
一言でなんてとても言い表せないが、強いて言うならば。
「太陽みたいな子……かな」
俺がぽつりとそう漏らすと、満足げにうんうんと頷く店主。
……なんだこれ、恥ずかしいんだけど。
なんだか顔まで熱くなってきたような気がして、俺は思わずそっぽを向いた。
すると、店主は更に俺に近づきにっこりと笑む。
そして、そのまま俺に向かって、考えつかないような『提案』をしてきたのだ。