第13章 愛逢月の秘蜜《後編》* 政宗、家康
「……なんで腹ばかり撫でてるんですか?」
「俺の子を孕まねぇかなと思って」
「……はぁ?!」
「この前の夜もここに結構注いだが…こいつの中で根付けば、美依は俺のものになるだろ?」
「あんたね……」
政宗の言葉を聞き、家康はげんなりと項垂れる。
そして確信的な言葉を聞けた。
やはりあの美依が酔っ払った夜、政宗は美依を抱いたのだと。
そう本人が今はっきりと言った。
どういう経緯でそうなったのか、ものすごく気になる。
やっぱり酔ったのにかこつけて、政宗が襲ったのだろうか。
それでも聞くのが躊躇われて政宗をジト目で見ていると、政宗は褥に頬杖をついてにーっと笑った。
「なんだ家康、何か言いたそうだな?」
「別に、そんな事は無いです」
「まあ、あの夜は美依から誘われたようなもんだぞ?」
「え」
「酒に酔っ払って、躰が熱くて人肌恋しい、なんだか寂しいって。そう言われちゃ助けてやりたくなるだろ」
「……それは、そうですが」
そうか、美依は政宗さんに襲われた訳じゃなく…単に誰かに触れてほしかっただけなんだな。
家康はそれを思い、何となくやるせなくなる。
それはつまり、自分が美依を介抱していれば、同じ状況になったのだと。
多分…そんな事を言われては、自分も見過ごせないと思うから。
単に、その時の巡り合わせだった。
美依が寂しい時に、たまたま政宗が居合わせた。
それだけだったのだと思う。
すると、政宗は起き上がり、おもむろに文机へと手を伸ばした。
そのまま手に取ったのは、例の練り切りが入った小箱だ。
中に仕切りがあって、三つ入っていたと思われるその菓子は、今は二つ。
それに鼻を近付け匂いを嗅いで…若干首を傾げた。
「……そんなに強力か?この媚薬入り菓子」
「なんか気になりますか?」
「確かに甘ったるい匂いはするが、この匂いは柘榴じゃねぇか?それに……」
「ちょっ…政宗さん?!」
僅かに練り切りをかじって口に含んだ政宗に、家康はぎょっとして起き上がる。
政宗はそのまま噛み締めるように口を動かし……
そして飲み込むと、顎に手を当て少し唸る仕草を見せた。