第12章 愛逢月の秘蜜《前編》* 政宗、家康
「────家康、お前も手伝え」
政宗がそう落ち着いた声で言い、立ち上がると自らの着物を緩め始める。
その様子にぎょっとする家康、政宗に向かって『頭は正気か』と言うばかりに声を荒らげた。
「手伝えって、政宗さん…あんたまさか!」
「"それ"しか手段がないって解ってんだろ?ならそうするだけだ、迷ってる暇はねぇ」
「でも……!」
「んー?なんだ、家康」
政宗が家康を見ながら、艶っぽく笑む。
バサッと荒っぽく上の着物が脱ぎ捨てられれば、よく鍛えられた肉体が襖に影を作った。
「三人で…は趣味じゃないって?」
「当たり前です、男二人に女一人なんて異常でしょ」
「確かにな、だがこいつをほっとけないだろ?そして互いに譲る気がないなら、それしか手は無いと思うぞ」
「っ……」
「嫌なら去れ。俺は俺のやれる事をやる」
そう言うと、政宗は再度美依の前に座り、その柔らかな頬に手を伸ばす。
政宗が触れると、美依は儚げに肌を震わせた。
そして政宗を見つめる、期待をしているような目で。
「美依…今癒してやる、任せろ」
「まさ、むね……」
「安心して身を委ねろ……な?」
力強くも優しげな声。
美依が微かに安心したような表情を浮かべたので、家康は呼吸を整えるように息を吐いた。
愛しい女を恋敵に任せられるか。
三人での蜜事なんて狂ってる、しかし……
そうせざるを得ない状況にあるのは確か。
なら、覚悟を決めろ。
美依を癒してやれるのは…ここにいる二人しかいないのだから。
「解りました、やります。抜け駆け禁止ですよ、政宗さん」
家康も羽織を脱ぎ捨てると、政宗の隣へと座る。
そして、政宗が触れている頬とは反対の頬に優しく触れた。
燃えるように肌が熱い。
独りでどれだけ我慢したのだろうか。
それを思えば、抱える自尊心などちっぽけに思えた。
狂っていてもなんでも、やるしかないと。
美依を癒せるなら、何でもしたい。
「もう大丈夫だよ、美依」
「いえ、やすっ……」
「すぐに楽にしてあげるから、安心して」
「うん、うんっ……」
美依の顔がくしゃっと歪む。
そして『ありがとう』と。
消え入りそうな小さな声で呟いた。