第12章 愛逢月の秘蜜《前編》* 政宗、家康
家康は花型のそれを指で掴み、匂いを嗅いで。
そして、ぺろっと僅かに舐める。
そのまま訝しげに練り切りを見つめる家康に……
政宗も真剣な表情で、その訳を聞いた。
「なんか解りそうか、家康」
「予測ですが……」
「なんだ」
「おそらく媚薬が練り込まれてます。この甘ったるい匂いとか、舌が痺れるくらいの甘みとか。美依の様子を見ても、多分」
「び、やく……?」
「催淫剤とか聞いたことない?性的興奮を高める作用を持つ薬だよ、美依」
────『媚薬』
それは性的な欲求や快感を高め、淫欲を駆り立てる成分が含まれている薬だ。
体に入れば全身が疼き、渇いて誰かに慰めてほしいと、そういう欲求が高まって堪らなくなる。
そして、性感帯含め全身の感度が過敏になる。
恋仲の男女が刺激を求めるために使ったり、夫婦の営みのために使われたり……
媚薬は案外簡単に手に入るものだが、それでもこんな風に菓子に練り込まれているのはかなり悪質だ。
こんなものが市で出回っているなんて。
そして、それを美依が食べてしまうなんて。
家康がため息をついて美依を見ると、美依は政宗に体を支えられながら、ぽろぽろと涙を零し始めた。
そして、自分の腕をぎゅっと掴む。
まるで……暴走するのを堪えているように。
「体が疼いて、堪らなくて…でも、誰にも言えないから、結局、じ、自分で……」
「美依……」
「苦しいの、すごく……熱くて熱くて、どうしたらいいか解んない、楽になりたいよ……っ」
くそっ、どうしたら。
その悲痛な声に家康は思わず額の髪を掻きむしった。
媚薬は放っておいても、自然に抜ける。
だが、量によっては抜けるのに時間がかかる上に、抜けるまでは体が極限まで疼く状態が続く。
家康には対処法は一つしかないと解っていた。
つまり、美依を抱いて満足させてやればいいのだと。
疼いている間、快感を与えてやればいいと解ってはいるけれど……
実際にそれが出来れば苦労しない。
恋仲でもないのに、美依を抱くなんて出来るわけがない。
だが、美依を放っておくのか。
苦しいという好きな女を、放置するなんて。
頭の中で葛藤が起き、家康が頭痛そうに額を手で押さえたその時だった。