第12章 愛逢月の秘蜜《前編》* 政宗、家康
「っ……」
「……政宗さんっ」
政宗は有無も言わさず、部屋の襖を開く。
ずかずかと部屋に入り、そして……
褥の傍にしゃがみ込み『美依』と、聞こえるように少し強い口調で名前を呼んだ。
「政、宗っ……?!」
すると、勢いよく褥から体が起き上がる。
姿を現したのは、間違いなく美依だった。
しかし───………
着物は乱れ、胸元ははばけて、今にも胸がこぼれ落ちそうになっている。
そして、瞳は真っ赤になって潤み、頬まで朱に染まっていた。
家康も部屋に入ってきて、その姿を見て驚く。
美依は一体何をしていたのか。
家康が思わずその華奢な肩を掴むと、美依はびくっと大袈裟なほど体を跳ねさせた。
「家、康っ……」
「美依、何やってたの?」
「べ、別に、何もっ」
「家康、美依…なんかおかしくないか?」
「っ……」
政宗の言葉に、美依は息をつめて俯く。
小刻みに震えている小さな体、それは信じられないくらいに熱い。
そして、吐かれる息も異様に荒い。
とても苦しげで、なんだか崩れそうに脆い雰囲気すらある。
"おかしい"と言われれば、明らかにその様子は変だ。
二人は一瞬顔を見合わせ、また美依に視線を戻すと、今度は政宗が美依に向かって問いかけた。
「美依、何があった?」
「……っ」
「お前を責めてる訳じゃねぇ、様子がおかしいから心配してるだけだ」
俯く美依に静かに優しく声を掛けると、美依はゆっくり俯いた顔を上げた。
だが、その熱に揺れているような視線は下に向けたままで、ぽつりぽつりと。
小さく弱々しい声で、言葉を紡ぎ始めた。
「体が変なの、熱くて…なんかおかしいの。あのお菓子を食べてから」
「あの、お菓子?」
「市で、もらったの。本当は、政宗と家康と、三人で食べるつもりで……でも、あんまりいい匂いがするから、つい一個食べちゃって…そしたら、体が熱くなってきて」
「その菓子、今はどこにある?」
「文机の、上」
美依の言葉を聞き、政宗が『家康』と名を呼ぶと、家康はすぐさま褥の脇にある文机に移動した。
そして視線を落とせば、確かに文机の上には小さな箱に入った練り切りが置かれていた。