第12章 愛逢月の秘蜜《前編》* 政宗、家康
「美依、部屋ですかね」
「この時間ならそうだろ、むしろ部屋に居なかったらそれはそれで心配だからな」
政宗と家康はそんな話をしながら、暗い廊下を進んでいく。
本当に、美依に何も無ければいいが。
お互いにそれを心に思いながら角を曲がり、美依の部屋の近くまで来て……
政宗が部屋の方を指差し、得意げに言った。
「襖が少し開いて、灯りが漏れてる。部屋にいるみたいだぞ」
見れば、確かに美依の部屋の襖が僅かに開いていて、暗い廊下に灯りが一筋の線を作っていた。
お互い心無しか早足になり、美依の部屋に近寄って。
さあ、襖を開くぞと。
家康が襖に手を掛けた、その時だった。
政宗が突然家康の手を掴み、開く動きを止める。
家康が政宗の方を見て『何するんですか』と苦言を呈しようとしたら、政宗が喋るなと言うように人差し指を唇に当てた。
「しー…なんか、変な声しないか?」
「え?」
「美依の部屋の中から」
政宗の言葉に眉を顰める家康。
二人は黙り込み、そのまま静かに聞き耳を立てた。
すると───………
「んっ…はぁっ、ぁ……っ」
微かに響く声に、政宗と家康は顔を見合わせる。
確かに、美依の部屋の中からそれは聞こえてくるようだ。
どこか苦しいのを我慢しているような。
それでいて艶めかしく、どこか艶っぽい吐息を含んだ色香を感じる女の声。
────まるで蜜事を彷彿させるような
それは美依の声なのか。
どこか聞き覚えがあるような気がするが、美依のこんな儚げな悲鳴は聞いた事がない。
「中で、何やってんだ……?」
「あ、ちょっと……!」
家康の静止を振り切り、政宗は襖の僅かな隙間をさらに少し開き、部屋の中を覗き込んだ。
政宗が中を凝視して息を飲んだのを見て、家康も少し躊躇いながらも部屋の中を覗く。
部屋の中には褥がひとつ敷かれていた。
その褥の中で、何かがもぞもぞと動いている。
毛布の盛り上がり方を見るあたり、二人いるとは思えない。
そして、その褥の中から漏れる色っぽい声。
多分……美依がそこにいると思われた。