第12章 愛逢月の秘蜜《前編》* 政宗、家康
私はどうしてこう、考えが足りないのか。
『うまい話には裏がある』とか。
なんでそれに気づけなかったんだろう。
その時、私は二人の事しか考えていなかった。
不安定になっていた心。
それを何とかしたくて、何でもいいから縋りたかったのかもしれない。
それが、まさか政宗と家康を巻き込んで…
あんな狂った夜に発展するなんて。
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「家康、何きょろきょろしてるんだ?」
何かを探している様子の家康に、政宗が声をかける。
家康は政宗に気がつくと、一回じとっと睨み手酌を再開させた。
今は七夕の宴の真っ最中だ。
いつもの事ながらの盛り上がりっぷり、豪華な料理や珍しい酒まで並んで、皆の腹も心も満たしていく。
そんな中で政宗は家康が周りを見渡し、挙動不審な行動をしていたので声をかけた、という訳だ。
「別に……なんでもないです」
「何か探しものか?探すの手伝ってやる」
「探しものって言うか…美依の姿が見えないなと」
「……確かに、ずっと見てないな」
「多分、宴自体に参加してないんだと思います」
「参加してないって…おかしいな」
家康の言葉に、政宗は軽く首を傾げた。
美依が宴の席に参加しなかった事は一度もないし、体調が悪いとかそんな様子もなかった筈だ。
声こそ掛けなかったが、今日も忙しそうに頑張って働いているのを見ている。
そんな姿を見ていたからこそ、疑問に思う。
何故宴に来ないのだろう、何かあったのだろうか?
政宗は『悪い、抜ける』と言って立ち上がると、そのまま廊下へと足を向けた。
それだけで全てを察した家康は、政宗の後を追いかける。
誰にも気づかれぬまま二人して廊下に出ると、政宗は苦笑しながら家康に問いかけた。
「家康……お前、慌ててどうした」
「美依の部屋に行くんでしょ?俺も行きます、あんたは何をしでかすか解らないんで」
「信用ねぇなぁ」
「当たり前でしょ、先に手を出しといて、何信用されようとしてるんですか」
家康の皮肉混じりの言葉に、政宗は『違いない』とあっけらかんと笑ってみせる。
そんな政宗を恋敵だとしても憎めない。
そんな事を思って、家康はまた大きく溜息をついた。