第12章 愛逢月の秘蜜《前編》* 政宗、家康
「?!?!」
瞬時に頭がパニックになる。
徐々に近づいてくる顔は、止まることを知らずに私の視界を遮ってきて。
何これ、何これ?
まさか、家康に……キスされる?
そう思ったら、真っ白になって何も考えられなくなった。
抗うって思考すらどこかに飛んで……
私はこの先を予想して、反射的にぎゅっと目を閉じた。
………だが。
「────そこまでだ」
(え……?)
不意に聞きなれた声がして、近づいてきた顔の気配が消える。
そーっと目を開けてみれば、家康は後ろから首をヘッドロックされ、そして……
家康の肩越しには、不敵に細められている青い宝石みたいな瞳があった。
「政宗……っ」
「政宗さん、あんたね……」
「んー?見過ごすと思ったか、この俺が」
「無粋って言うんですよ、こういう場合」
「知らねぇなぁ」
軽口を叩く政宗、怪訝な顔をする家康。
そんな二人を見ながら、心臓が高鳴っていく。
それは張り裂けそうなくらいドキドキと。
周りに聞こえてしまうんじゃないかと思うくらい、大きく駆け足で。
私、変だ。
なんで、なんで……
(なんで、こんなに、私───………!)
「美依……!」
私は壁際から抜け出し、二人に背を向けた。
廊下を走って、逃げて逃げて……
秀吉さんに見つかったら怒られちゃうなんて、全然関係ない事を必死に考えていた。
また"あの夜"がフラッシュバックしたのと、家康の突然の行動。
政宗を見ると、あの蜜な夜が頭を過ぎる。
その肌の感触や、温もりや、奥を穿かれた時の感覚まで思い出されて。
そして、今は家康にキスされそうになった。
まるで深い緑の炎に飲まれそうになって……
なんで、私はこんなにふしだらなんだろう。
流されて、ドキドキして。
こんなの変だ、絶対違う。
私、いつからこんなにいやらしい女になったの?
部屋に戻っても、顔と体の火照りは消えなかった。
それは、家康にキスされそうになったからなのか。
やっぱり、政宗を見ると必然的に思い出すからなのか。
頭がぐちゃぐちゃで、もう……
私は当たり前の事が当たり前のように判断出来ない、酷く不安定な状態になっていたのだ。
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