第11章 黒と蜜、紅と熱 * 信玄END
「傷付け逃げられ、逆上か。愚かな男だ」
「……っ」
「お前は誰も愛せない、誰も幸せに出来ない。自分勝手に愛した結果がこれだろう?」
「貴様に何が解る……!」
「おっと……!」
瞬間、信長が刃を弾き返した。
そして首を狙った一撃を寸手で避ければ、その刀先が頬を掠めて肌が切れる。
さすれば後ろから悲鳴が聞こえた。
振り返れば、美依が泣きそうに顔を歪めていて……
首を横に振ると、悲痛な声を上げる。
「やめて、もうやめて……!」
(美依……)
その顔を見れば、チクリと心が痛んだ。
もちろん美依は、信長を殺す事を望んじゃいない。
それは解っているが……
君を攫うためには、避けられない事なんだ。
殺るか、殺られるか。
そのくらいの状況なのだと、どうか解ってほしい。
指で頬の血を拭う事もせぬまま、改めて柄を握り直して再度信長と対峙する。
このまま猛攻を受け続ける義理もないし、背中に大事なものを守っているから、早々に決着はつけたい。
魔王とまで呼ばれる男だが、隙が無い訳では無いし……
そんな事を考えていれば、また信長が刀を繰り出してきた。
それを受け止めれば、刃がギィンと鈍い音を立てて、手が痺れる程の振動が伝う。
────だが、もう終いだ
「信長ぁ……!」
「……っ!」
衝突し合うその刃を全力で押し退け、強引に間合いに入り信長の懐に飛び込んだ。
そのまま太刀を振るう、薙ぎ払うように……
ザシュッ………!
その一撃は見事信長の肩を斬り裂いた。
「くっ……!」
信長が肩を押さえて、地面に片膝をつく。
俺は血の浴びたその刀先を、信長の首に突きつけ……
もう勝敗が決まった事を、解るように教えてやった。
「────お前の負けだ、信長」
「っ……」
「負けを認めろ、それとも首を斬られなきゃ実感出来ないか?」
肩で荒い息をする信長。
傷は結構鋭く入ったようだ、流血もしているし……深手を負った事は間違いないだろう。
放っておけば、確実に致命傷になる。
そんな信長を見下ろしていれば、信長は浅い呼吸を繰り返すだけで何も返答してこない。
喋るのも辛いのか?
いっその事、本当に首まで斬ってしまおうか。
そんな事を考え始めた、その時だった。