第11章 黒と蜜、紅と熱 * 信玄END
「信玄、様……!」
「君は背中に隠れていろ、信長は見るな」
「で、でもっ……!」
後ろにいる美依は美依で、この状態であるし。
危ういこの二人を引き合わせようなら…
また傷つく関係は繰り返されるだろう、一方的に愛を注ぐ信長と、それに迷い続ける美依。
その姿が安易に想像出来た。
だからこそ…この場で断ち切らねば。
己も抜刀寸前の構えを取り、信長を睨みつけた。
俺はお前が傷つくことは構わない、だが……
この子を傷つける事は許さない、絶対に。
もちろん、この子を手に入れるために、そう仕向けたのは俺だ。
けれど、痕が付くほど縛るなんて…
それはすでに『狂気』の域になる。
そんな状況に、この子を戻す訳にはいかない。
朝焼けで照らされる顔。
怒りと怯えに駆られている、この男を……
────斬る覚悟は、出来た
「────覚悟、信玄」
「……」
信長の唇から出た言葉。
それは俺と同じ思いでいるのだと、それを確認出来た。
するり…と刀を抜く。
抜いたら最後、斬るまでは鞘に戻せない。
俺はふっと口元に弧を描き──……
「さあ、最後の決着だ…信長」
自らの言葉で、
その戦いの火蓋を切った。
「はぁっ……!」
「………っ!」
直後、信長が抜刀しながら間合いを詰めてくる。
繰り出された刃を俺は受け止め、渾身の力で薙ぎ払った。
だが───………
次の攻撃が繰り出されるのが、早すぎる。
なんとか次の一撃も受け止めれば、刃と刃がギリギリと音を立てながら擦れ合い、火花が散った。
(本気で来ているな、信長は)
手加減などは一切無い。
その猛攻に押され、こちらから仕掛ける隙もなく……
踏ん張る足が、若干後ろに下がる。
気迫に押されるなんて、初めてだ。
だが、負けない。
負ける訳にはいかない、ここで決着をつけて愛しい子を自由にする。
俺はかち合う刃に力を掛け、足にも力を込めた。
そのまま間近で殺気立つ信長を見ながら……
敢えてニヤリと笑って、まるで煽るかのように信長にけしかける。