第2章 拝啓 愛しい君へ《前編》* 明智光秀
「謝らなくていい、謝る必要ないだろう」
「でも…面倒くさいでしょう?」
「いや、むしろ光栄だ」
「え……?」
俺が言えば、美依は驚いたように目を輝かせる。
そんなにびっくりする事でもないんだがな?
俺は美依の頭をぽんと撫でた。
勿論、思うがままに触れ合いたい気持ちはあるが…
それは、もう少し先の話。
美依が不安にならなくなったら…
その時は存分に、絡み合えばいいだけだ。
「俺が最初の男になれるなど、それは嬉しい以外の何者でもないだろう?」
「そうなんですか…?」
「まだ何も知らないお前を開花させて、じっくり愛でる…実に心が疼くな。他の男の快楽を忘れさせる必要もないし、俺の与える快感だけを覚えさせればいい」
「……っ」
「そうだな、だがとりあえず今は…」
そのまま、美依の唇に触れる。
親指で、すーっと下唇をなぞって。
美依の喉が僅かに鳴ったのを聞き逃さなかった。
ああ…"ここ"には触れてほしいらしい。
俺は美依の望むものは与えてやりたいから。
勿論…俺自身も今は"ここ"が欲しい。
「────口づけから始めるとしよう。
その先は…またじっくり教えてやろう」
しんしんと、外は粉雪。
とても静かで…もはや二人の息遣いくらいしか聞こえない。
頬を染めて、愛らしい顔をする俺の女。
そっと目を閉じたのを確認し…
ゆっくりと、唇を塞いだ。
初めて交わす口づけは、とても温かく。
とても官能的で、身体が昂ってしまったのは美依には内緒にしておこう。
────お前だけを、愛しているよ
お前に文を書いたのは…
どうしても気持ちを抑えきれなくなったからだ。
"欲しい"気持ちは日に日に募り…
焦がれる衝動のまま、筆を走らせた。
それでも、熱烈な恋文は書けずに。
追伸でさり気なく書いたのは、俺なりの気恥しさを紛らわすためだったのかもしれない。
"仕事"で女に愛は囁けても…
この饒舌な口は、真の愛を語るのには慣れていないようで。
それだけ、お前に惚れていると。
我ながら溺愛している事実に、戸惑いながらも抗えないのだがな?