第2章 拝啓 愛しい君へ《前編》* 明智光秀
────ただ、それは即ち…
『全て欲しい』の意ではあるのだが
「さて…美依。これからどうしてほしい?」
俺は美依の頬を指の背で撫でながら、率直にそう問いかけた。
全てが欲しくても、心や身体が昂っても。
美依が"駄目だ"と言うならば、それは強要出来ないと言うもの。
そこまでがっつく程、情けなくはない。
まあ、美依の返答次第ではあるが。
すると、美依はきょとんと目を見開く。
若干…意味を理解していないなと、俺は少しだけ苦笑してしまった。
「お前、湯浴み後の無防備な姿を晒しているんだぞ?それは誘っていると解釈していいのか」
「へっ…そ、そんなつもりじゃ!」
「だろうな。だが、煽られるのは事実だ。この湯浴みで火照った身体や、少し濡れた髪や…どことなく色っぽくて、唆(そそ)られる」
「……っ」
「だが、今想いを通わせたばかりだろう?さすがに、次の段階に進むには、お前の了承が必要だ」
そこまで言えば、この鈍感な娘も理解したらしい。
赤い頬をさらに上気させ、視線を泳がせて…
そんな姿に、本当に愛らしい小娘だと、また心に温もりが落ちた。
だが───………
この様子だと、多分男に慣れていない。
首筋に口づけただけで、震えて涙目になるくらいだ。
下手すると、生娘の可能性もある。
だったら…尚のこと慎重に進まねば。
そう思っていると、美依は一回俯き、その後何やら何かを決心したかのように俺を見つめてきた。
「あの、こんな事言っても嫌がりませんか?」
「こんな事とは、どんな事だ?」
「実は、その、私…その……っ」
「……未通女か」
「……っごめん、なさい」
(……何故、謝る。可笑しな娘だ)
誰だって"初めて"はある。
初体験が俺になる、と言うだけだ。
それは決して悪い事ではない、むしろ…
今まで、誰の男の色にも染まっていないという事実は、俺にとっては喜びでしかない。
惚れた娘が、他の男に抱かれていた過去があるなら、それは腹立たしいという他ないが。
まだ美依が清く白い花であるならば…
それは俺の手で存分に愛でて、俺の色に染め上げればいいのだから。