第2章 拝啓 愛しい君へ《前編》* 明智光秀
「───………っ」
刹那、美依が顔を歪ませた。
今にも泣きそうな顔、そんな美依が愛しくて…
そっと胸に抱き寄せ、その温もりを閉じ込める。
口に出すと、改めて実感するな。
お前への想いの強さを。
どんなに、恋しく想っているか…
もう堰を切ったように溢れてしまう。
すると、美依は俺の胸に顔を埋めながら、遠慮がちに背中へと手を回してきた。
そのまま軽く引き寄せられ…
そんな可愛らしい仕草の後に紡がれた言葉は、俺の心を鷲掴みにするほど純な台詞。
「私も…光秀さんが大好きです。
告白されて戸惑って慌てて……
でもずっとこうしてたいって思うくらい
────貴方の事を、愛していますよ」
(ああ…堪らなく、幸せを感じるな)
自分の幸せにはとても疎かったと思う。
むしろ幸福になろうだなんて、考えていなかった。
俺は泰平の世を作れるなら、この身は朽ちても構わないと思っていたから。
でも、美依を好きになって…
少し自分自身に欲が出たのは確かだ。
受け入れてくれるなら、もう少しだけ。
"自分のために生きてみたい"と。
「美依…ありがとう」
「はい……っ」
「良い返事で嬉しいよ、内心…どんな答えを用意しているかと気が気ではなかった」
「そうなんですか…?」
「ああ、だが…今日俺を待っているお前の様子を見たら、案外嫌ではなかったらしいとは想像がついたがな」
「……っ、どうせ解りやすいですから、私」
おやおや、少しむくれているな?
可愛い可愛い"俺の女"のご機嫌を取ってやらないと。
俺は胸に埋める美依の頬に手を当て、上を向かせた。
美依は頬を朱に染めながら、どこか困っているような、愛らしい顔をしていて。
これは…少々欲に駆られるな、と。
高ぶり始めた胸の内を抑え、俺は口元の笑みを深くしながら美依に言う。
「そこがお前の美点だろう?」
「そうですか…?」
「ああ、馬鹿正直なのはお前の長所だ」
「うっ…褒めてます?」
「勿論」
お前から素直さを取ったらお前じゃなくなる。
そんなお前だから…俺は惹かれたのだがな?