第10章 黒と蜜、紅と熱 * 信長END
「……っもう!」
すると、背中の後ろから怒ったような声が聞こえ、次の瞬間ふわりと背中に温もりが伝わったのが解った。
見れば、細い腕が後ろから身体に巻き付き……
小刻みに震えるそれは、しっかりと俺を抱き締めていた。
「本当に貴方は勝手です!散々振り回して、私の気持ちも聞かないで……!」
「美依……」
「なんで私が離れると勝手に決めつけるんですか!気持ちが一方的なんて、誰がそんな事言ったんですか……!」
「貴様は…信玄が好きなのだろう?」
「嫌いではないと言っただけです。正直、私は信玄様に絆されそうになっていました…でも」
さらに抱き締める腕が強くなる。
泣いているのか、ぐすっと鼻を啜る音まで聞こえ……
その涙声で美依は言ノ葉を紡ぐ。
「私は貴方の傍に居たいんです。貴方の酷く不器用な愛し方を、私は愛しいと思いました。貴方の瞳が翳るたび…すごく苦しくて、もっと笑って欲しいと思ったんです。奪ったものは返さなくていい、だから……お傍に居させてください」
(────………っっ)
刹那、
心の中に風が吹き荒んだ。
全て根こそぎ取り払うかのような……
そんな、強い激情の風が。
傍に居たい、などと。
散々傷つけた俺の傍に居ると申すのか。
それは、つまり───………
美依の腕を解き、振り返れば、美依は熱を孕んだ瞳で俺を見つめていた。
そして、その桜色の唇から零れるのは……
俺が一番聞きたかった言葉。
「私は賭けに勝ったのだから、貴方を好きにします。今度は、信長様が私のものになってください」
「美依……」
「私は信長様に奪われた、でも私も奪います。貴方の躰も心も全部」
「っ……」
「────愛しています、信長様」
もう……言葉には、ならない。
「んっ……!」
そのまま唇を奪ったら、すぐさま絡み合った。
熱い、溶けそうなほど、苦しい。
堪えきれない熱情が、声を上げている。
求めていたものは…本当はずっと傍に寄り添っていたのだ。
もつれ合うように絨毯に倒れ込む。
その華奢な躰に手を這わせれば……
それだけで心が震え、愛しい想いが爆発してそれに呑まれていく。