第10章 黒と蜜、紅と熱 * 信長END
(そうか、俺は───………)
心の欠片がコトンと音を立てて嵌る。
そして、すんなり感情が落ちてきた。
俺はきっと、
────一方通行の想いを知りながら、
ただ、それに抗いたかっただけなのだ。
やはり、俺は間違っていた。
美依に『迷い子』と言われても
仕方ないくらいに…己を見失っていた。
「っ……」
「────負けたな」
そして、勝負の行方はあっさり着いた。
黒より白の碁石の方が、僅かに陣地が広い。
俺がふっと笑みを漏らすと……
美依は納得がいかないのか、目を釣り上げて声を荒らげた。
「信長様、手加減はしないって言ったじゃないですか……!」
「貴様は俺が手を抜いてやるような人間では無いと知っているだろう」
「もしかして、最初からそのつもりで…!」
「それは知らん、貴様の捉え方次第だ」
「っ……」
俺はゆっくり立ち上がり、美依に背を向ける。
これで、繋がった鎖は切れた。
もう……貴様は自由の身だ、美依。
そのまま俺は言葉を続けた。
少しでも気を抜けば、みっともない感情が溢れてしまうのを堪えながら。
「貴様は勝った、奪ったものは返してやる。貴様を繋ぎ止めるものは、もう何も無い」
「信長様……!」
「俺を好きにするがいい。そして、好いてる男の元でも好きに行け。賭けは貴様の勝ちだからな、美依」
(行くな、とは言う権利も…もう無い)
そんな惨めったらしくはなりたくない。
送り出してやるくらい、度量の広い男でありたい。
力づくでも奪いたかった。
繋ぎ止められるなら……
どんな手段もいとわないと。
しかし、それでは美依の心を殺すことになる。
そう、俺は気づいていたのだ。
いつしか貴様は…笑わなくなった事に。
「今まで、すまなかった。俺はただ…貴様の温もりが欲しかった。ただ一方的に想うだけが、辛く苦しくて…故に強行手段に出たが結果、貴様の笑顔すら失った。貴様は太陽のように笑ってこそ輝く女だ。これからは…愛しい者の傍で、笑顔を絶やすな」
切れそうに心が痛い。
それでも、美依の為を思い耐えろ。
燃え盛るような恋情は消えない。
それでも…耐え忍び、身を引くのも愛だ。