第9章 黒と蜜、紅と熱 * 信長VS信玄《共通ルート》
『美依、貴様を愛している』
信長様は、俺様で強引で。
絶対に勝てない賭けを引き合いに、私の身体を奪って手に入れて。
そして、蜜な鎖で私を縛った。
甘く囁き、熱を注いで逃げられなくして……
私が心を差し出すように仕向けた。
とてもあの人らしいやり方だ。
私は……そんな信長様を今でも憎めない。
その一方で───………
『恋敵がいるのなら、俺は絶対引きはしない』
信玄様は、温和で優しくて。
私がその優しさに甘えても、私の心が決まるまでずっと待ってくれようとしていた。
いつも優しい言葉を掛けてくれて。
何気ない逢瀬の時間に、私は癒された。
そのままで居たら、私は信玄様に絆されていただろう。
きっと、身体は信長様のものであっても、心は信玄様のものになっていただろう。
でも、それじゃ駄目なんだ。
身体も心も『私一人』なのだから。
どちらかに決めなければ、きっと全てを傷つけてしまう。
「もう心がぐちゃぐちゃで、解んないよ……」
ぽつりと呟けば、瞳から涙が零れた。
信長様か、
信玄様か、
私の心の矢印はどちらに向いているの?
どちらも嫌いじゃない、
でも愛しているかと問われれば……
それに答える言葉が出ない。
解んない、
解んないよ。
私は一体どうすれば───………
視界が滲んで、前も見えない。
足元もおぼつかず、フラフラする。
「────美依?」
と、その時。
行く宛てもなく、ただただ歩いていたら、急に名前を呼ばれた気がした。
思考が麻痺していて、声の主が解らない。
でも聞き覚えのある、優しい声だ。
立ち止まって、俯いている顔を上げる。
目の前で私を見下ろしている、その瞳は……
心配そうに細められ、黒い宝石みたいに煌めいていた。
「だれ……?」
「誰って……」
「……」
「────俺は武田信玄だろう?」
(信玄、さま………)
涙で歪んだ世界がクリアになる。
瞬間───………
目の前に光が差した気がした。
差し出された大きな手が私の肩を掴み。
その温もりを感じたら、張り詰めていた気が、プツッと音を立てて切れた。
ああ、私……
この人に、会いたかった。