第9章 黒と蜜、紅と熱 * 信長VS信玄《共通ルート》
「信長様?」
「……美依」
「はい?」
「この首筋の痕、誰に付けられた?」
「え……?」
私は信長様の言葉に疑問を覚え、少し振り返って首を傾げる。
信長様を見れば、最大限に不機嫌そうな顔。
瞳が爛々と濃く燃えていて…私は目を見開いた。
首筋の痕って…信長様が付けたんじゃないの?
だって、着物に隠れた肌のあちこちには、信長様が昨夜愛した名残がたくさん残っている。
誰にって、他の誰かに付けられた覚えも……
『俺は君より少し大人で、狡い人間なんだ』
(あ……)
そこまで考えた時。
昼間の信玄様の顔がフラッシュバックした。
熱を孕んだ黒い瞳、色気のある男っぽい顔。
そして、その行動も思い出す。
信玄様は抱き締め、私の首筋に顔を埋め……
確かにそこに口づけられた。
あの痛みは…痕を付けられたからだったんだ。
私は途端に焦り、信長様から視線を逸らして。
そして、情けないくらいしどろもどろに『言い訳』を口にする。
「こ、これは、そのっ…貴方が付けたんでしょう?」
「俺ではない。男は己がつけた痕くらい、判別出来るものだからな」
「っ……」
「貴様、俺のものでありながら…他の男にそのような痕を付けさせたのか」
「あっ……」
その刹那、肩に力が掛かり、視界が反転して。
気がつけば、絨毯の上に押し倒されていた。
見上げれば、信長様が怒ったような顔付きで見下ろしている。
その目は獰猛で、瞳の紅が色濃くなり……
その研ぎ澄まされた刃のような視線に、私は目を瞠った。
「信長、様……」
「貴様、他の男に抱かれたのか」
「……!そ、そんな事は」
「違うなら、何故そのような色っぽい痕がつく?」
「っ……」
(怖い…ものすごく怒ってらっしゃる)
あまりの剣幕に、言葉が詰まる。
冷や汗まで出て、喉がカラカラに乾いていく。
私は信玄様とは何も無かった。
ただ一緒にお茶をして、たわいない話をしただけだ。
そりゃ、少し口づけられたり、抱き締められたりはしたけど…それ以上の事は何も無い。
でも…それを言った所で、信長様は納得するのか。
それすら聞き入れない雰囲気を感じる、そのくらい信長様は怒ってる。
すると、信長様はその無骨な指を私の頬に滑らせ……
まるで嘲笑うように、言葉を紡いだ。