第9章 黒と蜜、紅と熱 * 信長VS信玄《共通ルート》
「し、信玄、様っ……」
「君は温かいな、とても」
「あ……っ」
そのまま信玄様は私の首筋に顔を埋める。
次の瞬間、ぴりっとした痛みが肌に走り…
信玄様がそこに口づけたのだと、瞬時に悟った。
私が軽く声を上げると、信玄様は首筋から顔を上げて…
ほんの少し困ったように笑った。
「そういう声は出すもんじゃない」
「ご、ごめんなさい……」
「でも妬けるなー、君を引き止めてるのが信長だと思うと。それだけ君の中で信長の存在が大きいって事だからな」
「っ……」
「まあ、今はそれでもいい。今は……だが」
信玄様は私の頬に手を当てる。
そして、今度は優しく額に口づけられ……
私の顔を覗き込んできた。
その黒い瞳は、炎が燃えてるように煌めき…
少しだけ、熱を孕んでいるように見えた。
「恋敵がいるのなら、俺は絶対引きはしない。君を想う気持ちは…誰にも負けないからな。君が俺を選ぶように、これからは少し強引になるかな。俺は君より少し大人で、狡い人間なんだ」
────私はその言葉の意味を
その時は、全然理解できなかった。
だって、信玄様は……
いつでも私を見守っていてくれたから。
その後、甘味をご馳走になり、私は信玄様と別れた。
空を見上げれば、いつしか夕焼けになり……
また魅惑の夜の始まりを予感した。
私は今夜も信長様に抱かれるのかな。
また愛を散々囁かれ、熱を注がれて。
声が枯れるほどに、喘ぐのかな。
それを思うだけで身体が火照り、どこか期待している自分がいる気がした。
何を期待しているのか───………
それはさっぱり解らなかったけれど。
だが、私はこの後、思い知る事になる。
信玄様の言った『少し大人で狡い人間』とはどういう意味だったのか。
『少し強引になる』とは何を指していたのか。
いつもの様に濃密な夜になるはずだったのに、今夜はそうでは無くなること。
その時、私はまだ知る由もなく……
ただ茜色の空を見上げ、想う二人の姿を交互に心の中に映していたのだった。
*****