第9章 黒と蜜、紅と熱 * 信長VS信玄《共通ルート》
(────信長様に、信玄様…かぁ)
改めてそれを思い、私は小さくため息をついた。
二人の存在が、私を支配する。
二人は私の事を『好きだ』と言ってくれた。
でも……接し方はまるで逆だ。
強引に身体から攻め、蜜な鎖で私を捕える信長様と。
まるで心の内側から絆すように、私に優しくする信玄様。
まるで相反する光と闇、太陽と月。
そんな対称的な二人の間で、揺れ動く私。
どちらが好きなんて、答えはまだ出ていない。
私はどっちが好きなのかな、どちらも好きと言ってしまえばそれまでだけど……
そんないい加減な事ってない。
優柔不断な自分が、嫌になってしまう。
「溜息ついて…随分憂い顔だな、姫」
「えっ」
「そんな顔にさせてるのは、俺か?」
「ち、違いますよ……!」
すると、信玄様がそう言ってきたので、私は慌てて否定した。
信玄様のせいなんかじゃない。
原因は…私にあるのだから。
私は少しだけ俯き、嘲笑を浮かべる。
だって自分自身に呆れてしまうから。
「私っていい加減だなぁって……」
「何故そんな風に思う?」
「信玄様の気持ちにハッキリ答えていないのに、優しさに甘えて…失礼極まりないですよね」
「……」
「……自分でもどうしたらいいか解らなくて、自分の事なのに」
(……弱音なんて吐いて、ほんとだめだな)
告白してくれた相手に、こんな話するもんじゃない。
まるで答えを導いてくれ、みたいな。
それこそ失礼に当たるよね、信玄様を困らせてしまう。
信玄様は黙って私の話を聞いていたけれど、やがて手を伸ばし私の頬に触れてきた。
指の背で優しく撫でられ……
壊れ物にでも触れるかのような手つきに、思わず顔が熱を帯びる。
「……君が答えを出すのに足枷になっているのは、信長か?」
「……はい」
「噂は聞いているよ、君は…信長の寵愛を受けていると。だが悩むってことは、信長とは恋仲ではないんだろう?もしくは一方的に寵愛されているとか…そんな所か」
「っ……」
押し黙れば、それは肯定しているようなものだ。
そんな私を見て、信玄様は一度小さく息を吐き……
やがて、そっと私の肩を引き寄せ、抱き締めてきた。