第9章 黒と蜜、紅と熱 * 信長VS信玄《共通ルート》
私はその頃、信長様との賭けの事で、若干神経をすり減らしていた。
身体の一部を徐々に奪われ、どんどん侵食される感じに不安を覚えていて……
そんな時、安土に来ていた信玄様と会って、優しく接してもらい…私はそれにとても癒しを感じていたのだけど。
ある日、信玄様に『好きだ』と告白されて。
私は信長様の事もあったから、それに応えることは出来ず、恋仲にはなれないと断ったのに。
それでも───………
信玄様はとても優しかった。
『君が信長の気に入りなのは知ってる、
でも俺は君が好きになってくれるまで
いつまでも待つつもりだ。
もちろん無理強いはしないから……
ゆっくり心を決めてくれ。
もし、恋仲になれたら、
俺は君を離さないし、一生幸せにする』
(……信玄様の言葉に甘えてるよね、私)
信玄様はそれからも私に優しく接してくれている。
告白に関しての話題には触れてこないし、絶対無理強いはしてこない。
本当に…信玄様は私を待っていてくれてるんだ。
しかも、一生幸せにするとか、女として一番嬉しい事言ってもらえた。
私は…信玄様の事がとても好きだ。
これは恋なのか、ただ人として好きなのか、自分でもよく解らない。
でも、一緒にいると安心する。
心が穏やかになって…張り詰めているものが和らぐ。
────ずっとこうしていたいと思うくらい
と、その時。
いきなり信玄様がふっと吹き出した。
そして、苦笑しながら私を見て……
若干顔を覗き込みながら、和やかに言う。
「俺の顔に、なんか付いてるか?」
「え?」
「天女にそう見つめられるのは、悪い気はしないが」
「……っすみません」
(しまった…思わず見つめちゃった)
私は焦って視線をお団子に移した。
変に思われたかな、恥ずかしい。
そんな事を思っていると、私の方に信玄様の手が伸びてきて……
そっと親指で唇の端を拭われる。
びっくりして視線を上げれば、優しく細められた黒い瞳と視線が絡んだ。
「きな粉が付いてた」
「あ……」
「そんなに急いで食べなくても、誰も取らないから大丈夫だ。ゆっくり食べなさい」
ますます恥ずかしくなり、思わず顔が熱くなる。
信玄様はナチュラルにこういう事ができる人だから、焦る方がおかしいのだけど。