第9章 黒と蜜、紅と熱 * 信長VS信玄《共通ルート》
『俺と賭けをするがよい、美依』
信長様が私にそんな話を持ち掛けたのは三ヶ月ほど前。
信長様に『好きだ』と言われ、私は私の気持ちが解らないから受け入れられないと伝えた。
でも、信長様はそこで引くことはせず…
私に『私自身』を賭けて勝負をしろと言ったのだ。
囲碁で勝負をし、信長様が勝ったら私自身の一部を奪う。
でも、私が勝てば奪うのは止め、逆に信長様を好きにしていいと。
信長様は囲碁が安土一強い。
はなから、私に負ける気などなかったのだ。
勝負を繰り返し、信長様は私の身体を奪っていった。
手や耳たぶ、脚……本当に蝕むように少しずつ。
いつしか私は身体を全て奪われた。
そして、信長様の好きなように抱かれる日々が始まった。
信長様が与えてくれる刺激は甘美で、蜜毒のように私を侵し……
今の私は、もうそれから逃げられなくなっていた。
『今は身体だけでよい、いつしか──……
貴様の心も必ず手に入れてやる』
閨で私の髪を梳きながら、そう宣言した信長様。
私を愛してくれ、絶え間なく愛を注いでくれる相手に、嫌いな気持ちなんて芽生えるはずがない。
きっと…私は信長様の事、好きなんだと思う。
それでも、私は信長様に『好き』とは言えない。
こんないい加減のままじゃ……
真っ直ぐ向けられる気持ちに、失礼になってしまう。
私は本当は『どっち』を想っているのか。
私自身がしっかりと決められない内は、
────"どちら"の気持ちにも
絶対に応える訳にはいかないんだ……
(ふぅ…これで今日の納品は終わり!)
いつものように天主で一夜を過ごした次の日。
依頼を受けた仕事の納品が無事に終わり、私は安堵のため息を漏らした。
空を仰げば、まだ陽が高いのが解る。
早い時間に納品が終わり、後はフリータイム。
せっかくだから、茶屋で甘味でも食べようかな?
私はそんな事を思い、行きつけの茶屋に行く事に決めた。
市の近くにあるその茶屋には、私の大好きな黒蜜がけのお団子がある。
納品が終わったし、自分へのご褒美だ。
その甘味が目的で、足早に向かってみると……
「あ……」
茶屋の外にある長椅子に、見慣れた大きな背格好の男の人が座っていた。