第2章 拝啓 愛しい君へ《前編》* 明智光秀
「びっくり、しました。光秀さんから文が来た時点で、ちょっと驚いたのに…あ、あんな風に書いてあって…」
「……そうか」
「また私をからかってるのかとも思いました。愛してる、なんて…光秀さんから貰える言葉だと思っていなかったので。でも……」
「……」
美依が一回押し黙る。
『でも』の続きはなんだ…?
次の言葉を、俺も息を詰めて待っていると…
美依は意を決したように、ややはっきりとした声色で言葉を紡いだ。
「とっても嬉しかったんです。その、私も…光秀さんと同じ気持ちだから…っ」
(……っ)
同じ気持ちだから、と来たか。
それはつまり、美依も俺の事を…
それを思って、思わず口元を手で覆う。
『頬を朱に染めて、逃げるように天主から出て行った。あれは…"恋する女"の顔だと一目瞭然だったからな』
信長様はそう言っていた。
俺に告白され、恥ずかしかったのか。
同じ想いと知り、舞い上がったのか。
何にせよ───………
素直な美依相手に、策略なんてはなから必要なかったのだと。
それを思えば、口元には心からの笑みが浮かんでいた。
「光秀、さん……?」
すると、美依が怖々といった様子で振り返ってくる。
俺はその瞬間、その小さな身体を背中から掻き抱いた。
ぽすっといい音がして、腕の中に収まる。
そうすれば、美依は顔まで真っ赤にして、慌てたような声を上げた。
「み、み、光秀さんっ……!」
「もう少し、解りやすい言葉で言ってくれ」
「え……?」
「同じ気持ちとは、つまりどういう事だ?」
顔を見ながら、敢えて意地悪に問う。
せっかくなら『好き』とか『愛してる』とか。
はっきりと直球で聞きたい…なんて。
それはやっぱり我儘だろうか?
でも美依は俺の"意地悪"に、口をへの字に曲げ…
また若干俯き気味になって言った。
「お、同じは同じです……っ」
「うーん、それでは解らんな」
「い、意地悪っ……!」
「お前の気持ちを、その愛らしい唇から聞かせてくれ」
「……っ」
俺は美依の顎に手を当て、親指で唇に触れる。
ほんのり湿った、その温もりは…
心を疼かせ、俺の''意地悪"を加速させる。