第2章 拝啓 愛しい君へ《前編》* 明智光秀
「あの、光秀さん…っ」
「うん?」
「文の、ことなんです、けどっ…」
(……いきなりお前の方から話題を振ってくるとは)
恥ずかしそうに顔を染めたまま俯いて、小さくなっている美依。
そんな様子に、思わずぷっと吹き出せば…
美依は勢いよく顔を上げ、眉を釣り上げて頬を膨らませながら俺を見た。
「な、なんで笑うんですかっ…」
「いや…あまりにもお前が可愛くてな」
「……っ」
「美依、髪を拭いてやろう」
「え?」
「そのままだと、風邪をひくからな」
俺は一度立ち上がり、箪笥の中から手拭いを取ると、美依の背後に座り込んだ。
そして、手拭いでその柔らかな髪を包み、トントンと水気を取るように軽く叩く。
さすれば、美依は大人しくされるがままになっていて…
見れば、耳たぶまで赤くなっているのが解った。
「あの、ありがとうございます…」
「いや、このくらいは礼を言われる程でもない」
「それで、光秀さん……」
「……あの文の話だろう?」
「は、はい……」
これは緊張しているのか。
それとも、俺に期待しているのか。
出迎えてくれた事を考えれば…
案外『いい返事』を用意してくれたのかもしれない。
だが、恋仲でもない男の御殿で湯浴み後の姿を晒すなんて、無防備にも程があるがな。
俺はその細く艶やかな髪に触れ、まだ湿っているそれを軽く指で梳きながら…
我ながらびっくりするくらいの、穏やかで優しい口調で言った。
「お前はどう思ったんだ?」
「え?」
「俺は文に書いた事が全てだ。お前がそれを読んでどう思ったのが…それが重要だろう?」
「私、は……」
すると、美依はまた小さく縮こまる。
その華奢な背中を見ているだけで…
どうしようもなく、心が疼いた。
だが、まだ手を出す訳にはいかない。
抱き締めるにしても、美依の返事を聞かなくては。
俺が美依の言葉を待っていると…
美依はそのままの姿勢で、自分の気持ちを話し始めた。