第8章 桃色淫書-蜜恋に戯れる想い- * 石田三成
「……三成君が気になっちゃって」
「え?」
「きっと本を読み始めたら、朝までここに居るんだろうなぁって思ったら…自然に台所に向かってて、おにぎり握ってた」
「美依様……」
「書庫で食べるのもおかしいけど、少し休憩しなきゃだめだよ?」
美依様はそのまま私の顔を覗き込む。
その心配するような顔を見ていたら……
心に愛しさが沸き起こり、なんだか笑ってしまった。
「どうして笑うの?」
「いえ…何でもありませんよ」
(本当に…私を振り回す御姫様だ)
私は貴女を思い、自慰にふけって。
さっきまで、私はただの浅ましい雄だった。
とてもじゃないが、誰にも見せられない姿。
そんな姿を、貴女は知る由もなく…
純粋に私を心配して、おにぎりまで作ってきて。
面倒を見ているつもりなのかな。
やはり男には見られていない?
でも───………
少しは貴女に近づきたいですよ、美依様。
せめて、貴女を呼び捨てに出来るくらいに。
「────ありがとうございます、美依様」
「あ……」
私がそのままその華奢な肩にもたれかかるように顔を埋めると、美依様の躰が若干強張った。
そして、肩をそっと掴む。
それだけで、ふわりとした温もりが伝わってきた。
今はまだ、私は貴女にとっては『男』ではないのかもしれない。
でも、いつかきっと。
きっと、私の方を向かせてみせますよ。
その心も身体も私のものにして…
貴女も私の虜にさせてみせます。
私はもう溺れているから。
貴女の全てに、ハマっているから。
だから、貴女も私に溺れて、
────いつか気持ちが通い合う
そんな鮮やかな夢を見てもいいでしょう?
「せっかくなので、食べますね。少し疲れましたし」
「そっか、休憩は必要だよ」
「はい…それで一つ提案なのですが」
「うん?」
「そのおにぎり、食べさせてくれませんか」
「え?」
「貴女の手から」
貴女の優しい気持ちをいただきます。
疲れたから…少し甘えさせてください。
私の言葉に、貴女は少し震えた声で『うん、いいよ』と言った。
意地悪かな、でも……
貴女は私を振り回すから、おあいこです。