第8章 桃色淫書-蜜恋に戯れる想い- * 石田三成
(……私は、何をやっているんだろうなぁ)
頭が冷えて、改めて自分が情けなくなってくる。
艶本に煽られ、頭で想像して。
脳内であの方を思い描きながら、駆け上がって一人で果てて。
私はあの方を穢した。
頭の中で、めちゃくちゃに抱いて…
あの綺麗な御姫様を自慰の材料にするなんて、自分が自分で許せない。
こんな風に書庫まで汚して…
本当に何をやっているのだろう、浅ましい自分が本当にみっともない。
懐から手ぬぐいを取り出し、その吐き出したものを拭いていく。
あの方を思って欲情した躰と心。
それは紛れもない想いの形だけれど……
────貴女に受け入れてもらうには
少しばかりえげつなくて、純粋ではない
「────三成君、いる?」
その時だった。
書庫の扉の向こう側から、聞きなれた声がしたので、私は正気になって顔を上げた。
今の、鈴を転がしたような可憐な声。
それは間違いない、いつも私が心に思っている御方のものだった。
「美依様、なん、で……」
「三成くーん、開けるよーー」
「……っ、少しお待ちください!」
扉がガタガタと言い出したので、私は思わず美依様を制止し、急いで袴を整えた。
こんな姿を見られるのは恥ずかしいし、変に勘ぐられたりしたら、それこそ情けない以外ない。
慌てて身なりを直し、きちんと腰紐を結ぶ。
美依様には『何をしていたか』なんて、知られてはいない筈だ。
普通に…普通にしていればいい。
私は一つ呼吸をして整えて…
そしてさっき美依様と別れた時のままの『私』に戻って、美依様を書庫に招き入れた。
「美依様、どうしました?もう夜更けなのに」
「ごめんね、いきなり来ちゃって」
私が扉を開き、何事も無かったかのように美依様に話しかけると、美依様は少し遠慮がちに書庫に入ってきた。
手には盆を持って…
その盆の上には、おにぎりが二つ。
美依様はそれを私に見せながら、少し俯きがちに言葉を続けた。