第8章 桃色淫書-蜜恋に戯れる想い- * 石田三成
『────三成君』
あの方は、私にとって鮮やかな劇薬だ。
その声で、仕草で、表情で…
私を魅了し、惹き付けて虜にする。
それに魅入られてしまった私は…
もう、貴女しか見えないのだ。
私はあの方をお慕いしているが、あの方は私を大して意識していないのかもしれない。
触れても、別に何とも思わないのかも。
「……それはそれで、辛いですね」
思わず本音が零れ落ちる。
本当ならもっと意識してほしい。
一人の男として見てほしい。
それは…無理な願いなのだろうか。
私は少し切なくなりながら、先ほど崩れた本を拾い始めた。
とりあえずまた積んでおこう。
片付けると言っても、私がやると何故か片付かないから…
美依様に頼んで一緒に片付けてもいいかも。
そうすれば、また二人きりになれる。
次々に本を拾い、積み上げて。
そして、最後の一冊を山の一番上に積んだ。
その時だった。
「ん……?」
『蜜色戯画集』
積んだ最後の一冊の文献が、そんな表題なのが解り、思わず目を留めた。
こんな名前の本、この書庫にあっただろうか。
書庫にはほぼ毎日のように通っているけれど…もしかしたら初めて見る本かもしれない。
献上品か何かなのだろうか。
何となく興味を惹かれ、私は再度それを手に取る。
あまり読み込まれていないと思われるそれは、まだ表紙もしっかりしていて…
しっとりと手に馴染む紙の新しい紙の感触に、少しだけ心が上向きになった。
(戯画集…一体何の本なのでしょう)
表題だけでは内容の想像が出来ずに、私はそのまま表紙を開いた。
中表紙に書かれている『蜜色戯画集』という文字も掠れたりはしておらず、まだ綺麗で。
やはり最近の文献なのだと、予想が出来た。
パラッ…と次の頁をめくり、私は書かれている文字に目を通し始める。
何かの注意書きのような説明がつらつらと書き連ねてあり、なんだろうと首を捻りながら、また一頁。
ゆっくりとそれを開いた瞬間。
「え………?」
目に飛び込んできたものに、私は目を瞠った。
頁に鮮やかに描かれている、その絵は…
瞬時に私を高ぶらせ、腰から背中にかけて、ぞくりと痺れるように疼かせた。