第2章 拝啓 愛しい君へ《前編》* 明智光秀
(今頃そわそわしながら待っているに違いない、早く帰ってやらねば)
少し足早に御殿へ向かえば、外は雪なのに心は弾んで暖かかった。
俺は案外単純な男なのかもしれない。
美依を思えば…
まるで陽だまりに包まれているような、優しい気持ちになる。
これも、美依の為せる業なのだろう。
あの娘がいるだけで、今が乱世ではなく、安寧の世なのだと勘違いしそうになるくらい。
────これで、恋仲になれたのなら
それこそ…『幸せ』の言葉がきっと似合う
俺は雪道を歩きながら、密かに想いを馳せて、口元に笑みを浮かべた。
美依は何と返事をしてくるのだろうな?
それを思うだけで…
まるで初恋のような甘酸っぱさまで感じる、そんな心地さえ覚えたのだった。
*****
「美依、居るか?」
「……っ光秀さん!」
俺が御殿の自室に到着し、襖の外から声をかけると、美依の上擦った声が聞こえてきた。
まぁ、ここは俺の部屋だし、別に断わりを入れる必要もあるまい。
そう思って、襖を開く。
すると、部屋の中には火鉢があって、とても暖かな空気になっていると同時に…
昼間とは違う着物に着替えた美依の姿があった。
「お前、着替えたのか?」
「あ…女中さんが湯浴みを勧めてくれて…身体が冷えていたので…っ」
「成程、どうりで…」
何やら湯上り直後のような、少し気怠げな色っぽさが感じられる訳だ。
髪もまだきちんと乾いていないようだし…
少し湿った艶やかな髪や、頬が紅潮している様子が、少しばかり俺の心の柔らかい場所を刺激する。
(いつもは色気のいの字もないくせに…)
いつ"小娘"から、こんなに"いい女"になったのだろう。
惚れてる弱みはあるかもしれないけれど…
でも、美依はやっぱり愛らしく、とてもいい女だと思っている。
俺は部屋に入り、火鉢の前に座る美依の横に、ゆっくり腰を降ろした。
さぁ、ここからがある意味"戦"だぞ?
如何に戦略を練り、美依の心を掴むか…
そんな事を考えていれば、美依は小さく膝を抱えて座りながら、ぽつりと小さな声で言った。