第1章 継子
「うぅ…轟の爆音で耳がやられた…」
キィンと耳の奥で鳴り続いている耳鳴りに、呻きながら顔を歪める。
耳が聞こえにくくなったけれど、鬼は参体倒した。もう周りにはいないはずだし、残りの参体は既に師範が片付けているだろう。
早く師範のところに行かなければ。
「……にしても…」
ため息を吐きながら、未だに縄が絡まっている足に目を向ける。
師範の罠に引っかかるなんて…情けない。
後で怒られることを覚悟しておこう。
地面にうまく着地できるよう体勢を整えてから、日輪刀で縄を切った。
「うわっ!とと……う、気持ち悪…」
壱ノ型で僅かに抉れた地面に着地した途端、ずっと逆さの体勢だったせいか、とてつもない吐き気を催す。
口に手を当てて蹲り、ゆっくり呼吸を整えて、それをなんとか軽減させた。
刀を鞘に戻し、乱れた髪を整える。
鬼を参体倒して、怪我はなかった。
体に目立っているのは、師範との稽古でついた傷だけ。
かすり傷から滲んでいた血も完全に止まり、傷口は固まっている。
須磨さんの言うように、一応嫁入り前の女だし…傷跡は残したくないから、ちゃんと手当てしないと…。
「はぁ…えっと、師範はどこにいるかな」
まだ耳が聞こえにくいまま、師範を求めて歩き出した。
帰りが遅いと、叱られちゃう…。
「……!?」
ふと、微かに音が聞こえた気がした。
ハッとして、咄嗟に振り返る。
すると、自分を殺そうと襲いかかってきている鬼の手が、目の前にあった。
「なっ…!?」
その攻撃を寸でのところで避ける。
鬼の盛大な舌打ちが聞こえた。
「クッソ!アァ、惜しいなァ…あとちょっとだったのになァ!?」
稽古着の襟が、僅かに裂けた。
後で縫わなきゃ…と思いながらも、すぐに戦闘態勢に戻る。
相当な速さでこちらに向かってきたのだろうか、耳の横で空気が揺れている音がする。
自分が放った技の爆音で耳がやられて、そのせいで反応が遅れたけれど、聴覚が少しずつ回復してきた。やっと。
もう、あとほんの一瞬。
私の反応が遅れていれば、鬼の爪でこの体は裂かれていただろう。
大怪我どころか、死んでいたかもしれない。
あまりにも突然のことに気が動転し、ドッと冷や汗が全身に滲んだ。