第2章 おつかい
私の、低く唸るような声に驚いたのか、ふと息を飲む音が聞こえた。
ゆっくり目を開くと、隣に座るアオイちゃんが、湯飲み茶碗を握りしめたまま俯いていた。
「アオイちゃん?」
「…舞千さんは、すごいです」
ぽつりと、息を吐くように呟くアオイちゃん。
静かに湯飲み茶碗を茶托におき、今度は両手を握り合わせている。
「私は、何にもできない…。刃を振るうこともできず、鬼に怯えて、安全な場所に身を隠して、安心しきって……自分が嫌になります」
「アオイちゃんだってすごいよ」
「え?」
悔しそうに顔をゆがめて血が滲みそうなほど強く握りしめていたアオイちゃんの手に、そっと私の手を重ねる。
震えていて、少し冷たい。
「だって、怪我をした人たちを治療できるんだもん。私にはできないことだよ」
「で、でも、」
「できることとできないことがあって、当たり前だよ。だから人は、手を取り合って、助け合って、お互いに足りないものを補い合っていくんだと思う」
怖いのは誰だって同じ。
アオイちゃんは、鬼が怖くて戦えないから、他のことでみんなの役に立とうとして、今頑張っている。
私は、鬼が怖くても、他に方法が無かったから。誰かを守りたい、家族の仇をとりたい…でも怖いからという理由で鬼から逃げて、私にいったい何ができるんだろう?…それなら、どっちにしろ、鬼を狩るしかないじゃないか、って。
「支え合う。それって、すごく素敵なことじゃない?」
「〜っ」
顔を覗き込んで微笑むと、アオイちゃんの瞳が潤んだ。
下を向いているせいで、こぼれ落ちそうになったそれを服の袖で慌てて拭ったアオイちゃんは、勢いよく顔を上げると「が、頑張ります」と涙ぐんだ声で言った。
「うん、一緒にがんばろう!私、アオイちゃんの分もいっぱい鬼を狩るから!」
「ふふ、お願いしますっ」
「! きゃああ、アオイちゃん可愛い!!」
「え、わぁ!?」
太陽のように笑った顔がとてつもなく可愛くて、思わずアオイちゃんに抱きついた。
反動で縁側に倒れ込む私たちに、すみちゃんたちが駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫ですか!?」
「怪我はないですか?」
「お茶がこぼれそうです〜っ」
心配そうな顔をして覗き込んでくるみんなに、笑顔で大丈夫と答えた。