第1章 継子
「な、なん、で…っ」
なんでもう一体!?私ちゃんと参体倒したよね!?まさか師範がやられたわけじゃっ…
この鬼は、おそらく強い。私がさっき倒した鬼より、多く人を喰らい、長く生きているはずだ。
一時的に聴覚が衰えていたと言えど、ほぼ無音で私に接近してきた。
そして、鬼から聞こえている音が、酷く気持ち悪いのだ。聞いているだけで脳がぐわんぐわんと揺さぶられるような、不快で不気味すぎる音がずっとしている。
私の力では、ひょっとしたら倒せないかも、…しれない。
だから、もしかしたら、師範、も…
そこまで考えて、慌てて首を横に振った。
何を考えてるの馬鹿!師範がやられるわけないじゃない、こんな鬼にっ!師範が私よりどんだけ強いと思ってんのよ!ほんと馬鹿!私の馬鹿!!
「んン?なんだろうなァ、美味そうな匂いがするなァお前…ギヒッヒ、食わせてくれよォ…いいだろ?お前の肉をさァ!」
「ひッ!?」
ドンッと勢いよく地面を蹴り、私の元へ飛んできた鬼。
また寸でのところで避け、距離をとる。
何故こんなに動きが速いのだろう、と思ってよく見てみれば、鬼の背中からはコウモリのような翼が生えていた。どおりで速いわけだ。
そして、腕が四本ある。目も、三つ。
ギョロギョロと動いている目は、私を捕らえて離さない。
異形の鬼だ。
「お前、弱いんだろォ?俺を倒せねぇなら、俺の養分になりゃ丁度いいじゃねぇかァ!骨も、血も、残さず食ってやるから喰わせろやァッ!」
また飛んでくる。
距離をとっていたのに今度は鬼を避けられず、私を掴もうとしていた四つの手を刀で受け止める。
火花が、散った。
「重っ…!」
「ヒッヒヒ、弱いなァ弱いなァ?その腕なんかすぐ折れちまいそうだァ!」
「うっる、さい、耳元で叫ぶなっ…!」
「どこから食おうかなァ、この腕かァ?それとも足?アァ、頭からでもいいなァ!」
呼吸を使って、技を出すことができればいいのだけれど。
鬼が刃を握ってしまっているせいで、刀を振れないのだ。
せめて、せめて手を斬り落とせれば。
一瞬でも隙ができれば、倒せるかもしれないのに。
「足元がお留守だぜェ鬼狩りィ!!!」
狙われた足は、自分の体を支えるので精一杯。
諦めちゃ駄目なのは、わかっているのに。
私にはまだ、力が足りない。
師範──…
「ごめ、なさ…っ」