第2章 おつかい
「…霧の鬼?」
なんとか怪我人の手当てを終えた私たちは、蝶屋敷の縁側に座って休憩中。
お茶をいれて、抹茶味のカステラに舌鼓をうっていた。
「ん〜!美味しいです、お抹茶味のカステラ!」
「ほろ苦くて、でも甘くって…」
「しっとりふわふわです〜!」
美味しそうにカステラを頬張るすみちゃん、きよちゃん、なほちゃんの三人から少し離れたところに座って、私はアオイちゃんに怪我人の多い理由を聞いていた。
だって、あまりにも多すぎるのだ。
隣で小さくため息を吐き出すアオイちゃんの顔には疲労が滲み出ているし、こんなに慌ただしく手当てをし回っている彼女たちをかつて、見たことがなかったから。
「霧の鬼って…」
「はい。濃い霧をだす鬼、と怪我をした皆さんは言っています」
「うーん…濃い霧、かぁ…」
「怪我の状態から推測すると、それほど強い鬼ではないでしょうって、しのぶ様は仰っているんですけど……怪我をした人たちいわく、霧のせいで視界が悪くて、鬼の姿を見つけられないそうなんです」
「視界が悪いと当たり前だよね…鬼が有利になっちゃう」
「はい。…それなのに、誰一人鬼に殺されることはなく、怪我を負わされてお終い…」
確かに、重傷と言っても、死に至るほどの大怪我をしている人はいなかった。
切り傷が深かったり、手足の骨や肋骨にヒビが入っていたり、打撲だったり……数週間、長くても二ヶ月内で完治してしまうような怪我人ばかりなのだ。
「ここ二週間近く、それがずっと続いていて…」
息をつく間もありません…。
二度目のため息と同時にそうこぼしたアオイちゃんは、額に手を当てて目を瞑った。
「…ねぇアオイちゃん、あの人たちの階級は?」
「え?えっと…治療中の人たちの階級はたしか、“戊(つちのえ)”、“己(つちのと)”くらいだったと思います」
つちのえ、つちのと…
たしか、“戊”が上から五番目、“己”が上から六番目に強い階級。
隊士の階級が低ければ低いほど、鬼を倒せる比率は少なくなる。
一番下の“癸(みずのと)”であれば、倒せる比率は極端に減るけれど…
“戊”と“己”だったら…
「…て、え?うそ、“戊”“己”でも勝てないのっ?」
“己”はともかく、“戊”が勝てない?
ちょっと待って?
てことは…あれ?ふつうに強い鬼なんじゃないの!?