第2章 おつかい
「な、何これ…え、どうしたのっ?」
厨でお菓子を切り分けたあと、暇つぶしにお手伝いを…と思ってお皿を手に持ったまま、何やら慌ただしい様子の病室を覗き込んでみれば。
「あ、お久しぶりです舞千さんっ」
「舞千さん!すみません、今は手が離せなくて…!」
五人ほど休めるはずの寝具が、怪我をしている隊士たちですべて埋まっているのだ。
何度も訪ねたことのある蝶屋敷だけれど…すべての寝具が埋まっていた光景なんて見たことがない。
先ほど私を出迎えてくれたなほちゃんと、おかっぱ頭のきよちゃんが、慌ただしく怪我人の手当てをしている。
見ているだけで目が回りそうな忙しさに、思わず病室の入口で呆けてしまう。
「まだ動かないでください!!」
なほちゃんときよちゃんの声とは別に、隣の病室から声が聞こえてきた。
まさか…と思って隣の病室を覗きこめば、そのまさかで。
重軽傷の差はあるけれど、その病室も怪我人が寝具を埋めつくしていた。
「お薬まだ残ってるっ?」
「はい!あ、でもお湯を沸かさなくちゃいけません!」
「あっだからまだ動いちゃダメだったら!もう!」
髪をふたつに結っているすみちゃんと、口調は厳しいけど実は優しい神崎アオイちゃんが、なほちゃんきよちゃんと同様慌ただしく駆け回っている。
「いったい何が…」
なんて、考えている暇はない。
採血の検査結果が出るまで私には時間がたっぷりあるのだから、できることがあるなら手伝わなくちゃ。
これはお菓子食べてる場合じゃない!!
「アオイちゃん!何か手伝うことはある?」
「ひ!?…あ、舞千さん…」
怪我人に怒鳴るアオイちゃんよりも大きな声で声をかけると、驚いたアオイちゃんの手から手ぬぐいが落ちた。
それを拾い上げて手渡すと、少し冷静になったのか、気を張っていたらしいアオイちゃんの肩から力が抜けていく。
「私、帰るにはまだ時間があるから。できることがあるなら手伝うよ?」
「……あ、えと、はい…あ、お湯を沸かしてきてくれますか?」
「わかった!すぐ戻ってくるね!」
「お、お願いします……あ、ちょっと!消毒がまだ終わっていませんよ!!」
すみちゃんから薬缶を受け取って部屋を出てすぐ、気を取り直したらしいアオイちゃんの怒鳴り声が廊下まで響きわたった。