第2章 おつかい
「では、ついでに血液検査もしていきませんか?長らく舞千さんの健康状態を見ていないですし」
「え、いいんですか?胡蝶さんのお仕事が増えるんじゃ…」
「大丈夫ですよ。仕事が増えるより、後から宇髄さんに小言を言われる方が嫌ですから」
胡蝶さんは、機会があれば私の健康診断をしてくれる。
いわく、師範に依頼されているとか。
機会がある時に私の健康診断をしなければ、師範はことごとく胡蝶さんを責めるらしい。
任務や稽古に関してはめちゃくちゃ厳しいのに、ときには過保護で心配性な一面がある師範。
これを俗に言う“飴と鞭”なのだろうか。
だとしたら、その飴と鞭の差は激しすぎる気がする…。
昨日の師範の攻撃をふと思いだし、思わず身震いした。
「胡蝶さんがいいなら…お願いします!」
「日没前には検査結果が出ますからね」
私の血液が入った四本の短い試験管を箱に収納し、使用した器具を片していく胡蝶さん。
さすが、慣れているというか……楽しく世間話をしているうちに、採血は終わってしまっていた。
「はい、ありがとうございます」
「薬の調合はすぐに終わりますけど…どうします?結果を聞いてから帰りますか?」
師範は夕餉までに帰ると言っていたし、少しだけなら帰りが遅くなっても大丈夫なはず。
現在の時刻は、一時半を過ぎたところ。
日が沈む前に帰れば鬼に遭遇することもないし、それに、どうせなら検査結果を聞いてから帰りたい。
「今日はこの後の予定もないので、聞いてから帰ります!」
「では、ご自由に暇を潰しておいてくださいな」
「あ、胡蝶さん」
「はい?なんでしょう」
「厨をお借りしてもいいですか?買ってきたお菓子を切り分けたいので」
「ええ、いいですよ」
採血のため、胡蝶さんの机に置かせてもらっていた袋を持ち上げて見せる。
抹茶味のカステラ…胡蝶さんもきっと気に入るはずだ。
「胡蝶さんの分はお皿に寄せておきますね!」
「うふふ、ありがとうございます」
胡蝶さんを先に見送り、ふと窓の外に目を移す。
まだ姿を現さない煎ちゃんは、いったいどこに行ってしまったんだろう。
蝶屋敷を出る前に戻ってくるといいけれど。