第2章 おつかい
「たくさんの柚子、ありがとうございました!」
「うふふっ。こちらこそ、お礼を伝えにわざわざありがとうございます」
まるで天女のような微笑を浮かべる胡蝶さん。
後光が見えるのは気のせいだろうか。
「あ、それからもう一つ。師範からこの封筒を預かってきました」
無意識に合掌しそうになった手を羽織りの袖に突っ込み、師範から預かった白い封筒を取り出す。
ここに来る前に思いがけない騒動があったせいか、封筒には少しだけシワができていた。
師範から預かった時はひとつもシワがなくて綺麗だったのに…なんだか申し訳ない。
「いつもなら、封筒なんて大事なものを私に預けることはないんですけど……いったいどうしたんでしょうね、師範ってば」
屋敷で不足している薬の調達をしにここへ来る時は、簡易な用紙に薬の名前を書いて終わるのに…わざわざ封筒に入れて渡すということは、何か大事な用なのかもしれない。
でも、そんな大切なものを私を通じて胡蝶さんに渡すなんて…。
今朝出かけた師範は、蝶屋敷に寄れないほど急ぎの用事があったのだろうか。
手渡してすぐに封筒を開けて、取り出した手紙を読みはじめた胡蝶さん。
直後、微笑を浮かべていたはずの胡蝶さんは何故か真剣な表情になり、そして一瞬だけ眉をしかめた。
「…胡蝶さん?」
何か良くないことでも書いてあるのだろうか。
少しだけ心配になり声をかければ、胡蝶さんは何事もなかったかのように笑顔に戻った。
「…とっても大切に思われているんですね、舞千さん」
「え…?」
手紙を折り畳みながら、意味深なことを呟く胡蝶さん。
首を傾げる私に「いえ、何でもありません」と、内容を打ち明けることなく、まるで手紙を隠すかのようにそれを封筒に戻した。
「処方してほしい薬のことも書かれていました。今は在庫がないので、これから調合してきますね」
「あ、はい、お願いします」
「少々お時間をいただきますけど…このあとのご予定は?」
書類や本で散らかっていた机を片付けながら、胡蝶さんは椅子から立ち上がる。
手紙にはどうやら、私が知る必要のないことが書かれていたらしい。
気になるけれど、教えてくれないということは聞いてはいけないということだから、聞かずに我慢しよう。
「大丈夫です!今日は任務がないので」
少し、残念だけど。