第2章 おつかい
なほちゃんとお別れして、胡蝶さんがいるらしい書斎に歩を進める。
いつの間にか外に遊びにいっている煎ちゃんは、気づいた時には姿がなくて驚いた。
天気がいいから、きっと空を飛んでいるのだろう。
声くらいかけていけばいいのに…。なほちゃんと話してて気づかなかった私も私だけどさ。
「胡蝶さんこんにちは!鈴宮舞千です!」
書斎の戸を控えめに叩き声をかければ、「はーい、どうぞ」と聞きなれた優しい声が返ってきた。
静かに戸を開けると、机に向かって椅子に座っていた胡蝶さんがくるりと振り返る。
「失礼します」
「こんにちは、いらっしゃい舞千さん。お久しぶりですね」
「はい、お久しぶりです!お元気そうで何よりです」
髪の毛先が桔梗色で、後ろで結い上げている髪は蝶の飾りで留めている、蟲柱の胡蝶しのぶさん。
隊服の上には蝶を模した羽織りを羽織っている。
怒ると怖い、なんて噂されている胡蝶さんだけれど、私は怒られたことがないからその怖さはよくわからない。
まあ、腹黒いだろうなと思うことはあるけれど。
間違っても口にできない。
胡蝶さんはいつも通りふんわりと、なんとも人好きのする優しい笑顔で私を迎えてくれた。
本日もお顔がよろしいです。
「今日はどうされました?怪我は…ない様子ですけど」
優しい眼差しで、私に怪我がないことを確認する胡蝶さん。
なぜかと言うと胡蝶さんは、私たち鬼殺隊にとって、怪我を治療してくれる医者のような人だからだ。
この蝶屋敷は胡蝶さんやなほちゃんたちの家だけど、怪我をした隊士たちを治療するための場所でもある。
だから任務で大怪我をすると、ここに強制的に運び込まれるのだ。
ほとんどは師範のおつかいで蝶屋敷にお邪魔しているけど、私も何度か運び込まれたことがある。
多少の怪我は須磨さんたちが治療してくれるから、大怪我した時じゃないと蝶屋敷で眠ることはない。
もちろん、ない方が幸いなんだけど…。
「あ、怪我じゃないんです!昨日いただいた柚子のお礼をしに来ました!」
「あらあら」
柚子の皮を湯船に浮かべて、とっても癒されたこと。
雛鶴さんが、柚子を使ったお菓子を作ってくれること。
微笑みながら清聴してくれる胡蝶さんに、柚子のお礼を事細かに伝えた。
だって、本当に嬉しかったから!