第2章 おつかい
「いえ、これから食べようと思ってたところで…」
「良かった!それじゃあ一緒に食べましょう?お礼に奢ってあげるわ!好きな物食べて!何がいいかしら、おうどん?お蕎麦?ご飯も美味しいわよね!!」
私の手を両手で包みこみ、ぶんぶんと上下に振る満面の笑みの甘露寺さん。
きらきらと嬉しそうに、楽しそうに輝くそんな彼女の瞳を見てしまえば、断ることはできなくて。
「ありがとうございます!ではお言葉に甘えて…私、お蕎麦を食べたいと思っていたんです!」
私も笑顔でそう返せば、甘露寺さんはさらに笑顔を輝かせた。
ん゙、顔がいい…。
「それじゃあお蕎麦を食べましょう!ねえ伊黒さん、お昼はお蕎麦で大丈夫かしら?」
「俺は甘露寺と鈴宮に任せる。好きなものを食べるといい」
ずっとおじさんに向かってネチネチと小言を呟いて詰め寄っていたのに、甘露寺さんの声は聞こえた様子の伊黒さん。
ちゃんとお返事してくれました。
少し距離があるのに…さすがです。想い人の声はしっかり届くんですね。私の「落ちついて」という声は届かなかったのに。
「…あれ?」
そういえば、事故前よりなんだか手が軽いような………ハッ!
手に持っていたお菓子はどこ!?
「お、お菓子…な、ない、私どこにぶん投げたんだろう…!?」
とっさに甘露寺さんを引っ張って、刀に手をかけたから存在を忘れていた。
慌てていて、無意識に手放してしまったんだろうけど…きっとどこかに落ちているはず。
しかし、キョロキョロと辺りを見渡してみてもどこにも袋の姿が見当たらない。
せっかく美味しい抹茶のカステラを買ったのに…煎ちゃんのお煎餅も入ってるのに〜っ!!!
「ど、どうしよう…」
「ねえ舞千ちゃん、もしかしてあれじゃないかしら?」
「…え?」
ゆっくりとした口調で告げた甘露寺さんは、目線を上に上げたまま空を指さす。
つられて空を見上げると、一羽の鴉…私の相棒である煎ちゃんが、バサバサと降下してきていて。
そしてその口元には、見覚えのある袋が下がっている。
「舞千!オ菓子ィ!!」
「うそ、持っててくれたの?ありがとう〜っ!!」
煎ちゃんが、お菓子の袋をずっと持っていてくれたんだ!
私の相棒が気のきく鴉で良かった…!