第2章 おつかい
背後から、だんだんと近づく足音。
ゆっくりと振り返れば、いつもの無表情ながらもどこか怒っているような雰囲気を醸し出している伊黒さんが近づいてきていて。
「もう少しで甘露寺と鈴宮が怪我をするところだったんだ。許されることじゃない」
私とおじさんのそばで立ち止まった伊黒さんの目が、血走っ……あ゙ーッ!
怒っているような、じゃない!めちゃくちゃ怒っているっ!!
鏑丸さんもなんか、なんか…ゆらゆら動いて落ち着きがないし怒ってますたぶんっ!!
「貴様、一体全体どうするつもりだ」
「え、あ、いいいや、あの…」
「い、伊黒さん落ちついて…!」
「怪我が無かったからまだいい。だが怪我をしていたらどうするつもりだったんだ?どう責任を取るつもりだったんだ?傷痕が残りでもしたら貴様の息の根を止めることだってできるんだぞ」
「ひいぃ申し訳ありませんでしたぁ…!!!」
「謝って済むと思うな。なぜ切れやすい縄を使った?あんな量の丸太をなぜ一気に運んだ?崩れるのは予想できたはずだ」
あ、これ止められないやつだ。
伊黒さんのネチネチ攻撃が始まってしまうと、それはもう彼自身の気持ちが済むまで終わらないのだ。
おじさん、頑張って。私にはどうすることもできません。
でも伊黒さんも手加減してあげてください…甘露寺さんも私も怪我はまったく無いんですから…!
伊黒さんに詰め寄られて泣いているおじさんに心の中で合掌しながら、少しずつ甘露寺さんのもとへ後ずさりする私。
そんな私が見えているのか見えていないのかはわからないが、甘露寺さんの黄色い声が聞こえてきた。
「伊黒さん、今日もネチネチしてて素敵!蛇みたいだわぁ!」
甘露寺さんのトキメキも止まらないようだ。
どうしてお付き合いしてないんですかお二人とも。
「ハッ!そうだわ舞千ちゃん!お昼ご飯はもう食べた?」
あ、どうやら甘露寺さんの視界には入っていたようです。
グルン!と音がしそうな勢いで私を見た甘露寺さんの言葉に反応して、お腹の虫が小さく鳴いてしまう。
そういえばお昼を食べていなかったな…と思い出した。
食べようとしたところで甘露寺さんに呼び止められて、今の事故に遭遇してしまったから…
あ、やばいすごいお腹空いた。