第2章 おつかい
「え?きゃッ」
甘露寺さんの手を掴み、自分の後ろに向かって引っ張る。
勢いで甘露寺さんがよろけた。でもきっと伊黒さんが受け止めてくれたはず。伊黒さんが動く気配がしたから。
甘露寺さんを巻き込まないように。
掴んでいた手を離し、甘露寺さんと伊黒さんの盾になる。
転がり、止まることなく崩れてくる大きな丸太。
目の前にそれが迫って、あまりの迫力に一瞬ひるんだけれど。
私は一歩、前に出た。
できるだろうか。
いや、やってみせる!
決意と同時に、ガラガラと轟音が。
そして悲鳴が、けたたましく街に響き渡った。
「甘露寺!怪我はないか!?」
「わ、私は何とも…でも舞千ちゃんが…ッ」
濃い砂煙の中、視界ははっきりしなくとも、背後から二人の声が聞こえた。
良かった、無事みたいだ。
丸太が崩れ落ちた音を聞きつけた街の人たちが、近づいてくるのがわかる。
足音と、ざわざわと騒ぐ声が聞こえる。
周りの人たちは…無事だろうか。
私が庇ったのは、甘露寺さんと伊黒さんだけ。
だから、私のそばにいた人たちは怪我をしている可能性がある。
職柄上、鬼殺隊よりも一般人を優先しなければならないのに…
後々、叱られることを覚悟しておこう。
「舞千ちゃん!舞千ちゃん大丈夫!?返事をして!」
甘露寺さんの声に、地面に片膝をついていた私は立ち上がる。
まだ砂煙がおさまらないけれど、何とか歩けそうだ。
「はーい!ここにいますよ」
「舞千ちゃんっ!」
地面に座り込んでいた甘露寺さんは、私が砂煙の中から姿を現すと駆け寄ってきた。
そして、さっき出くわした時と同じように、勢いよく抱きつかれる。
かと思えば、ぺたぺたと私の体を触り始めた。
「ふふ、くすぐったいです!甘露寺さん、怪我はないですか?」
「あなたが庇ってくれたもの、平気よ!でも舞千ちゃんは!?怪我とか、痛いとこはっ」
「大丈夫です。全部斬りましたから」
「…え?」
砂煙が、ようやく晴れていく。
すると見えてきたのは、体積が小さくなった丸太の残骸。
「なので、怪我をしても痣くらいですよ」
私の言葉と笑顔に、辺りが静まり返った。