第2章 おつかい
何にしろ、苦手だと思っていた人といい関係を持てるのはいい事だ。
でも私はまだ、鏑丸さんに触れたことはない。
…一度でいいから、撫でてみたいな……なんて。
「お二人でお出かけですか?」
「そうなの!伊黒さんとお昼ご飯を食べようと思って!」
仲良しですよね、と言えば、甘露寺さんはキャッと頬に手を当てて顔を赤くする。可愛い。乙女だ。
そして伊黒さんも、私が「仲良し」と言ったせいか顔をほんのり赤くし、そっぽを向いてしまった。
…か、かわ…いや、男の人にこんなこと言っちゃいけないだろうけど…可愛い。
え、ちょっと初すぎやしませんかお二人共。特に伊黒さん。
これでお付き合いしていないとは…お似合いなのに、もったいない。
「…?」
「やだわもう舞千ちゃんったらそんなっ、恥ずかしいわぁ!……舞千ちゃん?」
ふと、何かが聞こえた気がして、辺りを見渡す。
何だろう。人が発する類のものではない音だ。
「どうかしたの?」
甘露寺さんには聞こえていないらしい。
伊黒さんも、不思議そうに私を見ている。
まさか、鬼…?と思ったけれどすぐにその思考は捨てた。
まず鬼なら、私よりも先に甘露寺さんと伊黒さんが気づくだろう。
それに、こんな真昼間から鬼が出歩くはずもない。太陽の下では生きられないのだから。
だから、鬼の音とは違う、何かだ。
ギシギシ、何かが軋むような。
ミチミチ、何かが擦り切れそうな、そんな音。
これは、いったいなんの音だろう。
どこから聞こえてきているの?
人混みの喧騒から選りすぐるように、耳をすまして音を拾う。
音のする方に目を向ければ、それは甘露寺さんの後ろ。
ゆっくり、ガタガタと揺れながら進んでいる、荷馬車が目に入った。
音はそこから聞こえてきていた。
荷台に大きな丸太が高く積み上げられ、縄で縛られている。
馬車が揺れているから、こんな音がするのだろうか、と考えたけれど、違う。
丸太を縛る縄が、揺れる丸太のせいで擦れ、今にも切れそうになっていて。
「甘露寺さ…」
もし崩れたら危ない、と思って声をかけようとした瞬間。
ぷつん、と。
私の声と被るように、縄のちぎれる音が耳に届いた。
「甘露寺さん危ないッ!!!」