第2章 おつかい
「ねえ舞千ちゃん、そのお菓子は?」
「え?ああ、これは…」
落ち着きをとり戻した甘露寺さんは、可愛らしく小首を傾げて私の手元を見た。
私の手には、つい先ほど購入したばかりの、蝶屋敷に持っていくお菓子の袋。それと、煎ちゃんのお煎餅。
「これから蝶屋敷に行こうと思っていたので」
「えっ、しのぶちゃんの所に行くの!?」
ぐっと顔を近づけた甘露寺さんは目を見開き、私も行きたいわ!と鼻息を荒くしながら至近距離で叫ぶ。
そういえば甘露寺さんは胡蝶さんのことが大好きだもんな、とひとり納得した。
強い者同士…柱同士で仲がいいのは、とっても羨ましく感じる。
戦友、という相手は私も欲しいなぁ。
この後予定が無いのであれば一緒に…と誘おうとしたけれど、突然聞こえてきた思わぬ声に振り返る。
「甘露寺」
「あ、伊黒さん!」
人混みをさらりと難なく避けながら私と甘露寺さんの元に近づいてきたのは、蛇柱の伊黒小芭内さん。
私と一緒に目を向けた甘露寺さんは、笑顔で手を振った。
「探したぞ」
「ごめんなさい、舞千ちゃんがいたものだから…」
仲良く会話をする甘露寺さんと伊黒さんは、よく二人で行動している。
…甘露寺さんはわからないけれど、伊黒さんはおそらく甘露寺さんに想いを寄せているのだろう。甘露寺さんを見つめる目がとっても優しいのだ。
しかし他の人には毒舌で、いつも根暗な雰囲気の伊黒さんは、何かとネチネチ小言を言ってくるからちょっと苦手な人──。
「…宇髄の継子か」
「こんにちは、お久しぶりです伊黒さん!」
でもそう思っていたのは最初だけ。
何度か出くわし話をするうち、根は優しい人なんだなと印象が変わった。
たまにお菓子をくれるし、任務後で怪我をしている時は近くの藤の家まで案内してくれるし。
そして何より、
「鏑丸さんもこんにちはっ」
伊黒さんの首にゆるりと巻きついている、白蛇の鏑丸さんが可愛いのだ。
伊黒さんの大切な友達だそうで、いつも連れて歩いている。
微笑みながら軽く会釈すれば、鏑丸さんは嬉しそうに舌をちろちろと出し、私と同じように会釈してくれる。ほら、可愛い。
──思えば、伊黒さんが私に優しく接してくれるようになったのは、鏑丸さんにこうして挨拶するようになってからかもしれない。