第2章 おつかい
「天気いいね、煎ちゃん」
「イイネェ!」
昼餉を食べる前に、雛鶴さんからお金をもらって屋敷を出た。
煎ちゃんはウキウキしながら私の肩に乗り、二人で話しながら、時おり歌を口ずさみながら賑やかな街へと辿りついた。
眩しい太陽の光が降りそそぐ青い空を見上げれば、煎ちゃんはふわりと空に飛び上がり、空に大きな輪を描いてまた私の肩に戻ってくる。「空、気持チイイ!」と言って羽ばたかせる黒い翼は、ツヤツヤと七色の光沢を放っていた。
反射してとっても眩しい。
でも煎ちゃんが羽織を着ていなかったら、もっと眩しかったかもしれない…。
「胡蝶さんに持っていくお菓子、何がいいかなぁ」
「オ煎餅!美味シイヤツ!」
「それは煎ちゃんが食べたいお菓子だねぇ」
「食ベタイ!食ベタイ!」
「ふふ、わかってるよ、後でね」
お菓子屋さんが並ぶ道をゆっくりと歩いて周る。
色とりどりの和菓子や、見たことのない外国のお菓子もたくさんあるから、試食をしながら慎重に選ぼう。
量が多くても困るだろうし、誰でも美味しく食べられそうなお菓子がいいと思う。
「あ、カステラだ!」
ふんわりと、どこか嗅いだことのある甘い香りに目を向ければ、ふわふわとした食感の甘い高級菓子、カステラが見えた。
「美味しそう~!見て煎ちゃん、抹茶味だって!」
「見タコトナイネ!ハジメテ見タ!」
「ね!」
はしゃいで会話している私と煎ちゃんを見ながらニコニコと満面の笑みを浮かべるお店のおばあさんに、試食はありますか?と聞けば、小さく切り分けられた抹茶味のカステラを爪楊枝に刺して手渡してくれた。
いただきますと食べてみれば、初めはカステラ特有の甘みとふわふわな食感がして。でも噛み続けていると、しっとり感が出てきてほろ苦い抹茶の風味が口に広がった。
「ん~、美味しい…!」
「新作だよ、お嬢ちゃん」
鴉さんも食べるかい?と、おばあさんは手のひらにカステラを乗せる。
お礼を言って受け取り、煎ちゃんに食べさせてあげた。
鴉って嫌われることが多いのに…なんて優しいおばあさんなんだろう。