第2章 おつかい
「任務ジャナイヨ、舞千ニ会イタカッタダケ!」
そう言ってまた擦り寄ってくる煎ちゃんは、私にとても懐いてくれている。
初めはまったく懐いてくれなかったけど、訳あって薄桃色の羽織に似た服を贈るととっても喜んでくれて、それをきっかけに仲良くなった。
お煎餅が大好きで、「あの店の煎餅は美味しい」「あの店は焼き加減が足りない」などと専門家のように語ることもあるほど。
私と分けて食べるお煎餅が一等に好きらしい。
愛い…。
「ふふ、私も会いたかったから、ありがとう煎ちゃん。でも、会議とかあるんじゃないの?大丈夫?」
「終ワッタカラ来タ!今日ハ舞千ニ任務ハナイヨ!一緒ニイレルヨォ!」
「じゃあ、後でお煎餅買いに行こっか」
「嬉シイ!嬉シイ!アリガトオォ!」
先ほどよりも強く、グリグリと擦り寄ってくるその頭を撫でてあげれば、もっと撫でてと言わんばかりにクフフと笑みをこぼした煎ちゃん。
もっと撫でていたかったけれど、ハッと掃除のことを思い出した私は、煎ちゃんを肩に乗せたまま竹箒を持つ手を動かした。
「おーい舞千」
あと池の周りを掃除すれば終わり、という時に後ろから声をかけてきたのは、着流しではなく隊服を身にまとった師範。
任務が入ったのかな、と慌てて駆けよれば、白い封筒を手渡された。
いつもなら封筒なんて大事そうな物、私に手渡すことはないのに…いったいこれは何なのだろうか。
封筒と師範を交互に見ると、師範は口を開いた。
「お前、今日は非番か?」
「はい、そうですけど…」
「あとで胡蝶んとこに行って、昨日の柚子の礼をしてきてくれ。それからその封筒も頼む」
言われて、昨晩の心地よかった柚子風呂のことを思い出し、師範の指示に了承した。
優しい柚子の香りは、昨日の私の疲れを全て吹き飛ばしてくれたし…私もお礼をしたいと思っていたから丁度いい。
「師範はこれから任務ですか?」
「おー、ちょっとな。夕餉までには帰る」
「…ん?」
え、夕餉?明日の朝餉ではなく?
「細かいことは気にすんな。んじゃ、それ頼むぞ」
首をかしげる私に師範はそう言って、瞬時に私の前から姿を消して出発したため、慌てて声を張り上げた。
「あっ、お気をつけてー!!」