第2章 おつかい
小鳥たちが元気にあいさつを交わす朝。
私は、心地よい緩やかな風に頬を撫でられながら、新調したばかりの竹箒を手に、まきをさんに任された庭の掃除をしている。
気休めに空を見上げてすぐ、つい数刻前の騒動を思い出して、ふと手を止めて屋敷の方を見つめた。
今は私が竹箒を握って掃除をしているけれど、実は先ほどまで須磨さんが掃除をしていたのだ。
起きてすぐ見かけた時は、一生懸命庭の掃除をしているように見えた須磨さん。
でも、いったい何があったのか……私が身支度を終える頃に、須磨さんの叫び声が屋敷中に響き渡った。
慌てて声のする方へ向かって見ると、大騒動が起きていたのだ。
発起人は言わずもがな。
掃いた落ち葉や枝をまちがって蹴散らすわ、石につまずいて池に落ちかけ間一髪で師範に抱きとめられるわ、その際に負荷がかかった竹箒の柄の部分にヒビがはいるわ…
次々と起こる事の対処にあたふたしていると、もういい!とまきをさんに一喝された須磨さん。
泣き喚いて、雛鶴さんに縋りついたまま離れないので、まきをさんはその場にいた私に新しい竹箒と共に庭掃除を託したのだ。
別に掃除は嫌いではないし、今日は鬼殺の任務もないし…と思い二つ返事で頷き、今に至る。
「須磨さん、泣き止んだかな…」
まきをさんに怒鳴られるだけでなく、師範にも「気をつけろ」と注意をされていたし…しばらくの間泣いていたから心配になる。
「後で私の分のおやつを分けてあげよう…」
うん、とひとり頷いて、また庭掃除を再開した。
すると直後、晴れわたる青い空から、聞きなれた羽ばたく音と私を呼ぶ声が聞こえてきて。
つられて空を見上げれば、黒い影がものすごい速さで私の元に降下してくるのが見えて、思わず笑みを浮かべた。
「舞千ー!舞千ー!カアアァ!!」
「煎ちゃん!」
名前を呼べば、嬉しそうに私の肩に留まる一羽の鴉。
私の鎹鴉の、煎ちゃんだ。
鎹鴉(かすがいがらす)は、隊士に必ず一羽あてがわれる、いわば伝達役の鴉。
普通に会話できるくらい知能がよく、カタコトではあるが人と同じように言葉を話せる。
鴉によって性格も様々で、話をしているととても楽しい。
「どうしたの?もしかして任務?」
頬に擦り寄ってきた煎ちゃんに問えば、首を横にふった。