第1章 継子
『 お前速えなァ、派手でいいじゃねぇか 』
「っ!」
耳元でまた、師範の声が聞こえた気がして。
ああ、あれは確か出会った時に言われた言葉だったかな、と。
まるで、走馬灯のように。
瞬間、なぜか体が軽くなった。
「ぐぇアッ!?」
刀からは手を離さずに、そのまま。
体をひねって鬼の攻撃を避け、代わりに足で鬼の脇腹を蹴り飛ばした。
一瞬のことで鬼も反応できなかったのだろう。呆気なく私の日輪刀から手を離し、転がるように私から離れていった。
「てめぇ鬼狩りィ…何しやがったァッ!?」
私の蹴りで皮膚が僅かに切れたらしく、血が流れている脇腹を抑えながら更に敵意を剥き出しにする鬼。
致命傷には至らなかったけれど、攻撃できた。
この鬼の血を、見れた。
どうして弱気になったの?
確かに私は弱いし、自信を持てない女だ。
でも、それでも師範が、私を認めてくれたじゃない。
褒めてくれたじゃない。
私の、速さを。
「音の呼吸」
せめて、今だけでいい。
自信を持て、私!
日輪刀の、柄を握りしめた。
鬼に向かって構え、くるりくるりと刀身を回転させる。
「伍ノ型」
「ヒヒッ、抗っても無駄だァ、お前は俺に食われるんだよォ鬼狩りィッ!!」
刀身の回転速度を上げながら、すでに傷が回復している鬼に向かって歩き出す。
速度をもっと上げなきゃ。
止めるな。
師範に教わったとおり、もっと、速く。
私が出せる最高速度まで上げれば、回転している刀身から爆発が生じ始めた。
「鳴弦奏々」
そう唱えながら、向かってこようとする鬼の動きを爆発で抑えた。
首を斬られないよう庇おうとした鬼の腕に傷がつき、鮮血が飛び散る。
怯んだように見えた鬼の頸に、続けて刃を振るが、鬼は隙を見せることなくその翼で飛び上がり、上空から落下するように突っ込んできた。
「っ…あ゙」
それを避けようと爪先で後方に退いたら、運悪く小石を踏んでしまったらしく。
体勢が崩れて、視界がぐらりと歪む。
鬼の手が、真っ直ぐ私に伸びてきた。
「終わりだァッ!!」
嘘でしょ!?
あと少しで倒せそうだったのにッ…!
汚らしく牙を剥き出しにして笑う鬼に刃を向けるけれど、崩れた体勢ではどうすることもできない。
悔しくて、ギリッと奥歯を噛みしめた。